鶴屋開店休業回転ベッド

あたしの創作世界の基盤。だけどとてつもなくフレキシブルでヨレヨレにブレてる。キャラが勝手に動くんだ♪

入籍

「わあ。久し振り!こんなんだったわねぇ。」
「浅海ー。」
市役所で婚姻届をもらってきた渉と浅海。
浅海は二回目なので懐かしいらしい。
保証人の欄には渉の両親、亮と美月の署名を
お願いするつもりだ。
「なんか。待って。手が震える。」
渉は無駄に緊張してペン先が小刻みに踊る。
浅海はそっと渉の手を取った。
「しっかりして。パパ。」
「浅海ー!」
浅海は純粋に励ましたつもりだったのだが
渉はもっと緊張してしまって
とうとうペンを放り出した。
「先に書いてて。ママ。」


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紙切れ一枚とは言え
この紙切れ一枚の威力を思うと手が震えた渉。
普通の表情でサインをした浅海。
この用紙のもうひとバージョンにも一通り
サインをしている浅海は流石に慣れたものだった。
正直二人とも結婚した実感はわいていない。
浅海はこれから四肢の浮腫みが気になり
結婚指輪を見送ろうかとまで言い出した。
「それはだめだよ」
渉はバイト代を貯めて指輪だけでも
自分の金でプレゼントしたかったのだ。
「少しでもキツいと思ったら外せばいい」
渉は有無を言わせず浅海の顎を押さえてキスした。
浅海のぷっくりとした甘い唇を味わう渉。
音になるかならないかの微かな声で囁いた。
「浅海。愛してる。俺、嬉しいよ。
もう、ずっと俺のものだぜ。おまえは。」
喉が詰まるほどに気持ちがこみ上げる。
「あたしね。初めて渉と二人きりで話を
した時、こう、ここらへんがきゅっとした。」
浅海はお腹の膨らみの、おへそのだいぶ下を
手で触れて見せる。
「子宮よ。今は中で赤ちゃんが育っているから
ここまであるけど、本来は鶏の卵位の大きさ。」
浅海はうっとりとして渉を見上げる。
「あなたにまっすぐ睨み付けられて。
あたし、うずいたのよ。中学2年の
男の子の眼に、痛くて、濡れたわ。」
渉は分からなそうに、それでも愛しそうに
浅海を抱いている。
「その時からずっと。めちゃくちゃに
されたかったの。そんな気持ちにずっと
抗って、見ない振りして、蓋してきたわ。」
浅海は少年のあどけなさの残る
荒削りな男が成長していくのをずっと見ながら
すべてを包む想いで必死に誤魔化した。
よく7年も誤魔化し通したものだ。


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「旦那が嫌いになったんじゃなくて。
渉を好きになった。体の自由が効かない位。
あたしは旦那に組み敷かれながら
渉とのセックスをなぞらえて濡れた。
酷い女だわ。
あいつとの赤ちゃんが出来なかったのは
多分神様が止めて下さってたから。」
渉はやさしく触れて
ゆっくりと入り込んで
浅く、それでも花びらを味わうように
蜜を掻き出して貪るように大切に動いた。







俺は美瑛を裏切った。

渉はこの罪を忘れちゃいけないと思っている。
浅海も同じように、渉を想う罪を犯して
それを罪として抱えているのを知った。
同じものを抱えて、それから目を背けない。
渉にはそれが、嬉しかったのだ。

「浅海。大好き。」

渉はやさしく、赤ちゃんをかわいがるように
浅海のお腹の膨らみを撫でる。

「あん。嬉しい。」

浅海は自分のお腹に置かれた渉の手に
満足げに感じている。

スウィート※R18

「だめ。」
こんなにだめが色っぽく
だめがだめじゃないオンナがいるものか。
雅也はデートの度に思う。
「いやぁ。」
以下同文。
赤信号を待つ間、助手席に座る美瑛の太ももに
手のひらを置く。
特別動かなくても、彼女は自分の肌のぬくもり、
感触にどんどん高まってくれる。
これはそろそろご期待に応えようと
雅也が太ももの内側へと指を這わす。

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「だめよう。」
「なんで?」
「あん。感じちゃうの。濡れちゃう。」
「触れてるだけじゃねえか。」
「いや。いやあん。」
雅也がショーツの隙間から指を差し込もうと
すると拒むように、美瑛のむっちりと
湿った土手と太ももに挟まれた。
「もう、雅也さあん!信号青よ!」
雅也は渋々手を離して運転に集中した。

「少し砂がついちゃったわ。」
浜辺を散歩していて、貝殻を拾ったりしていた
だけなのだが、美瑛のバッグやスカートには
湿った砂が所々についてしまっていた。
ドライブは二人きりの狭い空間が嬉しい。
雅也は夏になるのが待ち遠しくなる。
夜の海辺で、潮騒に包まれながら。
セックスしたい。あ、勃ってきちまった。
「くそう。お前のせいだぞ。なんとかしろ。」
雅也は股間を指差してみせる。
「んもう!何を想像したのよぅ!私知らないわ」

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雅也は急に進路を変えて
ショッピングセンターに車を入れた。
郊外型の広い駐車場。
ガラ空きの出入口から遠い一角に車を停める。
そそくさとチャックをさげた。
「くわえろよ。」
美瑛は一瞬反抗的な鋭い目線を雅也に向けたが
それもたまらなく綺麗で色っぽかった。
「くわえろ。」
雅也がゆっくりと命令すると、美瑛の表情が
とろけ始めた。
「あん。雅也さんの意地悪。」
「愛してるよ。美瑛。」

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「あんっ!雅也さんのおちんちん
太くて長くて、苦しいよぅ。」
情けないことにこんな言葉と決して上手いとは
言えない舌使いでどくんどくんと絶頂に
達してしまった。
美瑛は必死でびくびく動く雅也をくわえながら
吹き出す精液を飲み込んだ。
「んふ、んふぅ、んふうん。」
雅也が絶頂に達したことに本能から快感を
覚えたのだろう。美瑛は鼻からよがり声を
微かに漏らす。

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「美瑛。ありがと。最高だ。」
名残惜しそうに自分の亀頭を唇からぷるんと
吐き出した美瑛を抱き起こすようにして
キスをする。
自分の精液にまみれた口腔内は少し複雑だが
彼女の唇や舌はとろけそうに甘い。
「くそう。まだ明るいけど、行くか。」




ラブホテルのベッドの上で
ふたりとも胸の奥の不安の芽を自覚する。
あんまりにも、キモチイイ。
セックスに溺れるのは、度を越えなければ
全く悪いことではないように思う。
だが、もう、我慢出来なくなりそうなのだ。
ふたりの体の相性は良すぎるほどだった。
気がおかしくなりそうなほどに感じる。

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雅也も美瑛も、お互いが二人目の相手だが
以前のパートナーとは体験できなかった域に
達しているのは明らかなことだった。
だが、二人が不安に思うことは必ずしも
一致したことではなかった。
雅也は仕事の合間にも美瑛のもとに飛んでいき
分刻みのスケジュールでも彼女を抱かなくては
いられなくなるかもしれないという
現実的な悩みだった。
一方、美瑛は体の結び付きばかりが先行して
心を愛してもらえているのか、自分も彼を
体抜きでも愛していると言い切れるのか
そこがどうにも不安になったのだ。

雅也は美瑛のMの部分が堪らなかった。
つい、いじめたくなる。
美瑛は、雅也に恥ずかしいことを言われるのが
好きだった。渉はしてくれなかったことだ。
彼の強引で、ぶっきらぼうで、荒っぽくて
でもやさしいところが好きなのだ。
痛いくらいに振り回されて
あったかく抱きしめられる。
いやいやといいながら
いやじゃないことがちゃんと伝わってる。
離れたくない。
キモチとカラダがこんなに感じるひと。
でも不安になる。
キモチの快感は、もしかすると
プレイの延長で自分の錯覚なのかもしれない。


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雅也は、不思議なほどに
すんなりと美瑛に惚れていた。
そりゃ抱いているとき、言うことをきかそうと
しているときに囁く愛の言葉は薄っぺらい。
承知の上だ。
まだお互いが服を着ているとき。
普通に話をしているとき。
自分に笑いかける美瑛に何だか胸が掴まれる。
自分を見つめる瞳の色が愛らしくて
嬉しくなり口元が緩んでしまう。
これは、美瑛にイマイチ伝わっていないのかも
しれなかったのだが。

疲れが溜まっていたのか
雅也はセックスが終わると口数が減った。
美瑛は機嫌が悪いのかと不安になり
雅也に擦り寄った。
「どうしたの?雅也さん。」
たまらず甘えた声で話しかけると
返事はすでにイビキだった。
美瑛はそのまま雅也の隣に潜り込んだ。
眠った顔をゆっくり眺めるのは初めてだ。
渉の寝顔は見たことがなかった。
あいつはあたしと一緒にいるとき
そこまで心を許してなかったの。
今ならわかる。
もっと甘えて欲しかった。
もっと甘えたかった。
ああ。もうそんなこと思っても仕方ないのに。
イビキをかいて幸せそうに眠る雅也に目を戻す。

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「かわいい。」
17も年上のひとなのに。
かわいい。
「美瑛。」
寝ていると思っていた雅也が自分の名を
はっきりと呼んだので
美瑛は慌てて口を押さえた。
かわいいなんて言ったら叱られるかしら。
「美瑛。愛してるよ。離したくない!」
「ま、雅也さん。」
「んが。」
雅也は、まだ眠っていたのだ。
「ずご、    っ。」
「い、今、ちょっと呼吸止まってなかったっ?!」
美瑛は目を剥いて雅也の呼吸を観察した。
口元に手を当てて呼気を確認した。

10分以上そうしていた。
どうやら呼吸は正常だったようだ。
無邪気な表情で眠る雅也に
触れるだけのキスをした。

浅海と賞平3

「蒲生が訪ねてきたって?」
賞平とは本校に行かなくなって
しばらく会っていなかった。
どう伝え聞いたのかいぶかしんでいると
「美月に、聞いた。」
以心伝心のタイミングで返事が返った。
渉が話したのかな。
美月に伝わるまでは良かったが
賞平から話が回ってくるのは少し
居心地が悪かった。
「どうして?」
元旦那が訪ねてきたことを
なぜ問い質されるのか、自然と刺々しい
口調になってしまう。
「何も責めてるわけじゃないさ。
なんか美月や渉には言えないような揉め事が
起こりそうなら俺が相談にのる。」
まったく。
この人は誰に対しても兄貴で
それを自分ではまったく意識せずに
やってるところが参る。

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浅海は思う。
渉を好きでよかった。
今、もし一人で幸せから突き放されたような
寂しい身だったら賞平に惚れてると思う。
「そんなことでワザワザ電話くれたの?」
悪態をつきながらも、声が甘えてしまって
ツンとできない。情けなかった。
「そうだよ。」
兄貴は特に気分を害した様子もなく
話の続きを進めていた。
「いや、美月はそんな揉め事が起こる
気配はないって言うけど。万が一ね。」
これは義理の母も一枚噛んでいるのかも
しれないな、と浅海は思う。
でも二人とも隠し事とかの出来ない人種なんだ。
雅也も彼女が出来たと
満足そうな顔はしていたけれど。
先にこんなに幸せになってしまった自分は
胸の奥にチクリと痛む棘がある。
でも雅也は揉め事を起こすようなヤツじゃない。
「大丈夫よ。断言できるわ。」
「そうか。なら、よかったよ。」
賞平は安心したのか、言うことだけ言う形で
電話を切った。
分かりやすいひと。


安定期に入って、また夜の営みが頻繁になる。
大きくなり始めたお腹が邪魔になるが
横になって、渉が後ろから首筋を甘噛みすると
自分にもすぐにスイッチが入る。
「渉ぅん。」
「浅海。だめ?」
この甘えた声がたまらない。
あなたが一番よ。
渉の肉棒は金属と思えるほどに
硬くなっている。
「ゆっくり、きて。」
渉も心得ていて、あまり深くは入ってこない。
一層豊かになった浅海の乳房をやさしく
揉みしだいて敏感な先端部を柔らかくしゃぶる。
「あ、あん。」
「ごめん。とまんねえ。」
渉の激しい動きに、浅海も段々と
我を失っていく。




「お前は渉の何処に惚れたんだ?」
浅海が本校に赴任の打ち合わせをしに来た日。
校長室を出たところで賞平と行き合った。
送ってやろうかと声をかけられて
甘えることにしたが
車に乗り込んで開口一番こう来たのだった。

「美月先生もお義父さんも分からなそうに
してたけど、みんなどうして分からないのかしら」
浅海は本当に笑ってしまう。
あんな男臭くて女の恋心を本能から鷲掴みに
するあいつの匂いが全く分からないのね。
「女って惚れた理由をきちんというやつと
いわないやつといるよな。」
「あ、あたし、雅也とは身体だなあ。
セックスで満足させてくれる気がした。」
「身体かよ!」
「でも、体からあいつの男っ振りに惚れた
っていうのもあるけどね。体だけじゃないの
あの男はね。」

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賞平は若い頃、体だけの関係ばかりで
惚れた女にはからきしだったのを思い出す。
蒲生は学校でもセックスばかりしていて
その時その時の学年主任にまで顔を覚えられる
くらいにどやしつけられていた。
だが、寝る女は浅海ひとりだった。
「渉はね。体だけでもいいから触れて欲しい
って思わせる。振り向かせたいって思わせる。」
賞平は渉を教えていた高校生当時のことを
思い浮かべてみる。
そういや、毎年渉には回りに色気づいた女子が
何人かうろうろしていた。

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目立った行動を起こさなかったのは
一緒に美瑛がいたからだ。
あいつに喧嘩を売れるほどの女子は
なかなかいない。
「でも男性が彼の魅力に気づかないのは
分かるわ。同性からしたらたんなるいいやつ
だものね?」
「いや、あいつは俺には割と敵意を持ってたよ?」
賞平は首を横にゆっくり振りながら苦笑い。
「やだ。渉ったら賞平くんにもヤキモチ
妬いてたの?んもう。」
「ヤキモチ?」
「正直、賞平くんと美月先生ってどこまで
いってるの?キスくらいはしてるんでしょ?」
賞平は別にやましいことはひとつもないのに
真っ赤になってしまう自分が情けなかった。
浅海は声をたてて笑った。
「本当にだいじなのね。なんなのかしら
この感じ。前世では絶対夫婦だったわよ。」
賞平はなんだか胸の奥があったかくなる。
そのわりに美月の手足をタオルで縛って
犯したい衝動だってずっと変わらず持ち続けて
いるのは我ながらおかしなものだと思う。
「可愛いなあ、賞平くんは。」
「ばか!」

「じゃあ、賞平くんは美月先生のどこに
惚れちゃってるの?奥さんのことは?」
浅海が矢継ぎ早に質問を返すと
賞平は複雑な顔で笑った。
「美月には、S。美雪には、M。」
「なんの記号論?」
「美月のことはいつでも犯したいと思う。」
「ん。正直ね。」
「自由を奪って側に置きたい」
「ふぅん。」
「女房の方は、違うんだ。同じ犯すにしても
俺はあいつに半ば誘導されていく。
で、しまいには抱き締められて
『いけないひと。』とか言われて赦される。」
浅海は何だか、濡れてしまう。
赦す快楽が、とろりと溢れ出す。
自分の体で暴れる男を包むしあわせ。
熱くなった。
「奥さまにはお会いしてみたいわ。」
「お前とは会わせたくねえな。」
「なんでよ。」
「いらんこと吹き込まれそうだからさ。」


浅海は誘う。
「渉ぅ?」
くちびるを渉に向けて、声に出さずにねだる。
抱いて。
「浅海!」

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渉は速攻で浅海の望み通りのものをくれた。
オンナに生まれてよかった。
同時に渉がオトコに生まれてくれたことに
感謝した浅海だった。

和解

「浅海先生!待って待って!」

土曜の放課後、帰ろうとすると
こう呼び止められた。
優子が事務室から玄関に出てきて
パタパタと駆け寄ってきたのだ。
「浅海先生にお客さんなんだけど。」
優子が浅海を引っ張り、正面玄関の柱に身を寄せ
ガラスの扉に少しだけ顔を出して外を指差す。

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「あの男の人。昔の男だなんて言って
名前を教えてくれないんです。」
浅海はビックリしてなかなか言葉が
出なかったのだが、すぐに優子の肩に手を乗せ
微笑んだ。まあ、ぎこちない顔だったのは
自分でも十分自覚はあった。
「なんであの人ハッキリ言わないのかしら。
前の亭主よ、あれは。心配しないで。」
優子は怒ったようなホッとしたような
疲れたような複雑な表情から笑い始めた。
「んもう!何かと思いましたよ!」
雅也が浅海達に気づいて近づいてきた。
「よ。浅海。」
相変わらずやんちゃな笑顔である。

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応接が空いていたので優子が通してくれた。
「顔が見られたからもういいよ。」
雅也はお茶まで出してくれた優子に
再三辞意を表したが、諦めてソファに座った。
「いきなり、なに?」
浅海は雅也を懐かしくは見ていたが
正直そんなに会いたいとは思っていなかった。
「お前が俺と別れて、幸せになってくれるか
それだけが気がかりだったから。」
「それ以前にお互いあんまり会わない方が
幸せになれると思うんだけど?」
「浅海。」
「あなたも、幸せになってよね。」
「もちろん。」
雅也が答えた。その表情から浅海はだいたいの
ことを読み取ることができた。
「彼女が出来た。で、セックスが気持ちよくて
たまらない。って顔。」
雅也は慌てて顔を厳めしくしてみたり
眠そうにしてみたりしている。

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「いや。そういう言い回しは失礼だろ。
なんか俺がセックスのことしか考えてない
みたいじゃんかよ。」
「あら、違ったんだ。あんたと知り合ってから
20年以上経つけど、はじめて知ったわ。」
「浅海。」
「何か、用があるなら早く言いなさいよ。」
「妊娠、おめでとう。」
「え?」
「こないだ美月に偶然会ってね。あいつ顔に
出るからさ。嘘がつけない。少しゆさぶり
かけたら簡単に吐いたぞ?」
「ひどいわ雅也は。美月先生に何か言ったの?」
「大丈夫だよ。気持ちはわかってくれたと思う」
浅海は美月が雅也に強く言われて
黙っていられなくなった様子を想像した。
相変わらずこの男は、あの頃のように純粋で
荒っぽい目をしていたのだろう。
「あたしは、今、最高に幸せよ。」
浅海はやんちゃでかわいい男を突き放すように
思いをこめた。

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「ごめんな。」
「どうして謝るのよ」
「いや、お前が幸せになれる相手は俺じゃ
なかったのに。長いこと縛りつけたなって。」
雅也はたまにこんなことを何も考えずに口にする。
ズルい。たまに、優しいのはすごく。
「ま、あんたもいい彼女が出来て良かった
じゃないのさ。」
雅也はあまり話を聞いていないようで
浅海のおなかをのぞきこんだ。
「さわっても、いいか。」
「まだ動かないわよ。」
「あやかりたい。」
あんまり雅也が真面目な顔で言うので
浅海は笑ってしまう。
「そうね。あんたが種無しじゃないことを
祈るけど、なんかご利益がありますように。」
雅也の大きな手のひらが、浅海のおなかに
優しく触れる。とてもあたたかかった。
「無事にかわいく生まれてこいよ」

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「え!前の旦那さん?」
浅海は隠すことでもないので
渉に晩御飯を食べながら全部を話した。
「おなか、さわっていった。」
「へえ。そう。」
渉は気になるけど気にしていない風に装う。
「渉。愛してるわ。」
浅海は食べ終わるとすぐに渉にキスした。
「おい。浅海。」
「あん。抱いて。やさしく。」
「もちろん。もう。愛してるよ浅海。」

セカンドラブ2※R18


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「感じてるね?うしろで。」
ベッドの中で、自分が今まで何をして
生きてきたのかさえ忘れるくらいに
激しく抱かれた。
美瑛は一緒に手探りでセックスしてきた
渉とは全く違う愛撫と体位と熱さと動きに
翻弄されて、それに満足する自分の体に
戸惑いを隠せなかった。

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「いや。恥ずかしいわ。」
「気持ち、いいんだろう?」
「これ以上感じたら、溺れ死んじゃう。」
「大丈夫。死なない程度にしてやるよ。
死ぬほど気持ちよくしてやる。」
「あ、あああん。」
「ほら。もうこんなに開くじゃないか。
いつもアナルでしてたの?それともオモチャを
入れてた?」
「アナルセックスは、彼のがもたなくて。
すこししか。」
「なるほどね。」
美瑛のアナルにプリッとして硬い亀頭が押しつけ
られる。
「ひああん!」
「ピクピクしてる。すごいな。いくぜ?」
同時にヴァギナにはやさしく指が侵入してきた。
花びらのふちを露で弄び、奥の浅い凹凸の
天井を前後に圧迫するように刺激した。
「あ、あう!ふああんっ!!」
「んふふ。確かに、若いのじゃすぐイッちまう」
「あ、ああ!いや、出ちゃうっ!」
そう叫ぶとほぼ同時に潮を吹いた。

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「う、すげえ。なんていい体だ。」
「いや。恥ずかしい。」
「すごく魅力的だ。堪らないよ。」
「からだ、だけなんて。いや。」
「美瑛。」
美瑛は誰かに、自分を愛してほしかった。
抱かれるのは気持ちよかったが、体を愛でて
もらうだけなんて、悲しすぎた。

「君は、俺に体以上のものを求めてくれるんだ?」
久し振りにイキつかれてくったりと腕枕に
身を任せた美瑛に、やさしく話しかける。
「男の人は、抱いてくれてるときはやさしい。
でも、それだけだなんていや。」
逆に美瑛はもうこれ以上、体だけの交わりは
耐えられないと思う。
感じる自分に罪悪感まで抱いてしまうだろう。
「じゃあ、君は、俺と一緒にいてくれるの?」
美瑛はゆっくり頷く。
「あたしも、幼馴染みの彼に振られたばかり
なの。寂しくて立ち直れなくてうじうじしてた。」
「そうか。俺たち、おんなじだな。」
「でも、迷惑ならこれきりにして。」
「俺なんかで、いいのか?こんな中年男で。」
「あなたは素敵だわ。」
「名前で、呼んで。」
「じゃあ。蒲生さん。」
「苗字じゃなくて。名前だよ。」
「雅也さん。」
「美瑛。これから、よろしく。」
たっぷり可愛がってあげるから。
雅也は美瑛の耳を食べ始めた。
美瑛は体をくねらせて感じ始める。
「いや。あ。感じすぎて痛い。」
「待って。すぐ、入れてやる。」
雅也は自分のぺニスに手早くコンドームを
被せると、美瑛のヴァギナにヌプヌプと
挿入した。
くっと奥に入れると半分引き抜き、また奥に
捻り込む。リズミカルに繰り返すと
美瑛が悲鳴のようなよがり声をあげた。
「美瑛。好きだ。俺がこうしてずっと
抱いててやる。離さないよ。」
「うれしいっ。」




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だいぶ遅い時間になっていた。
雅也は美瑛を自宅まで送り届けて
例のごとくハグをたっぷりして
唇を吸い合って別れた。
美瑛が家に入っていくまでを
見守ると、車に乗り込む。
ふと、横を見ると懐かしい顔があった。
「あれ。蒲生くん?!」
「美月先生?」


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美月は友達の家で久し振りに飲んでいたと言う。
「送ってあげるよ。乗れって。」
「近所だよ?」
「タクシーじゃないから乗車拒否はしないよ」
美月は好意に甘えることにして後部座席に
お邪魔した。
「美月先生はどこに住んでるの?前のアパート
じゃないだろ?」
「その前のアパートの隣に越したんだ。
おなじ大家さんの4DK物件に移ったの。」
「へえ。子どもはあの双子ちゃんだけ?」
「そう。もう大学生だよ。」
「俺は離婚して実家暮らしなんだよね。」
「そ、そうか。うん。」
美月の顔がみるみる曇る、
「浅海、附属第二で体育の先生してんだ。
会うことなんかあるの?」
「最近、よく会うよ。村雨さんとは。」
「あ。じゃあ、知ってたんだね。」
美月は居心地悪そうに、申し訳なさげに
下を向いてしまった。
「浅海、元気でやってる?」
「あ、ああ。そりゃ、もう。」
「美月先生。なんなのさ。そんなに気使うなよ。」
「え、えへ。」
「なんかあったのか?浅海に。」
「なんかとは?」
「美月先生?!言え!何か隠してんだろ!!」
「隠すことでもないけどわざわざ言うことでも
ないんだよ。」
美月の歯切れの悪い言い方に雅也が苛立つ。
「じゃあ、わざわざでいいから言え!」
「がもちゃん怖いぃ。」
「ぶりっこすんじゃねえ!」
「目がマジだね。分かったよ。」
「ごめん。美月。悪かったよ。つい熱くなって。」
雅也は車を路肩に止めて、美月の頭を撫でた。
「村雨さんはあたしの義理の娘になる。」
キョトンとした雅也に、今度は美月がそっと
手を伸ばしてやさしく頭を撫でる。
「うちの長男と結婚する。」
「さっき大学生って」
「ん。妊娠したんだ、彼女。」
「マジかあっ?!」
「ん。マジだね。」
「……ちっくしょう。やられたなあ。」
「色々あったんだよね。」
「ごめん。待たして。車出すから。」
雅也はがっくり肩を落として、ノロノロと
車を発進させた。


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美月は家の前で車を降りた。
「ありがと。がもちゃん。」
雅也も追いかけるように車を降り、
美月に抱きついた。
「なんかすげえ敗北感。」
だいぶ年上の姉に甘える末っ子のような雅也。
「よしよし。元気だしな。」
美月は雅也の背中を優しく撫でた。
「あれぇ。美月って背縮んだ?」
「がもちゃんが大きくなったんだよ。」
しばらく二人抱き合っていると
玄関のドアが開く。
「美月。遅いから迎えに行こうかと」
亮は美月が男と抱き合っているのを見て固まる。
「あ、亮。これは教え子!教え子だからね!」
雅也もあわてて美月から離れて亮に会釈をした。
「村雨さんの元旦那。」
「え?!」




「大丈夫だから。俺ももう、彼女出来たし。」
美月は雅也に暖かいハーブティーを出して
落ち着くように寄り添って話を聞いた。


「何で美月はこう教え子に密着型の教育を
施さないと気がすまんのだ?!」
卓の部屋で管を巻く亮。

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「確かに男女関係なく体当たりだけどね」
「中学生じゃないじゃん。」
「母さんの悪い癖なんだよね。いつまでも
教え子は中学生だし、生徒も母さんを見れば
中学生に戻っちまう。」

「嫌いで別れたんじゃないんだ。
でも、もう駄目だった。俺だって浅海が幸せに
なるのはうれしい。安心したからさ。
でも。やっぱりまだ、痛いな。」
「がもちゃん、新しい彼女ってどんな人?」
雅也は先程まで一緒にいた美瑛を思い出して
口元がだらしなく緩んだ。
「そういや、彼女も中高と久田だったって。」
「あたし、教えてるかな?年下?」
「17も下。うふふ。」
「え。と。うちの息子たちの代。」
「え。偶然だな。緒形さんて子知ってるか?」
「み、美瑛?」
「そう!知ってるかあ。中学生の頃から
セクシーだった?」
「うちの長男の、元カノ。」
美月も雅也も、開いた口が中々塞がらなかった。

セカンドラブ

「お姉さんセクシーだねえ。」
「俺らとカラオケでも行かない?」
美瑛はひとりで街を歩く度に
男から声をかけられる。
髪を金色に染めたチャラい奴が
決まって二~三人で取り囲み
しつこく絡んでくる。
ここで母の瑛子ならば
チャッチャと蹴り倒して先を急ぐのだろう。
瑛子は前世紀の遺物、スケバンという
よくわからないがとても強くて格好いい
お姉さんだったらしい。
でも美瑛は運動音痴で性格も内向的
自分でも情けないほどに弱い女だと思う。
幼馴染みの鈴は男の子相手でも平気で言い負かす
強気なメンタルと弁の立つ頭の回転の早さで
いつだって堂々としている。
羨ましかった。

自分はいつも渉と一緒にいて
助けてもらってばかりだった。
ひとりになるとそれをつくづく思い知らされる。
その自信のなさが表に出てしまうのだろうか
渉と別れてからは特に絡まれやすくなった
気がする。

それにしても今日のやつらはしつこい。

「もう、時間も遅いし帰らないと」
「いいじゃない!俺らが一晩中つき合って
あげるからさあ!」
「もう、通してください。」
「可愛いなあ~」
「もういい加減にやめてやれよ」
ヘラヘラしたナンパ野郎共とは明らかに違う
すこし太めの低い声がした。
スーツ姿のサラリーマンだ。
三十代後半の大柄でいかにも体育会系な
がっしりした体つきだった。
「なんだオラア!カッコつけてんじゃねぇぞ!」
ナンパ野郎共も腰が引けているが
相手は一人だと強気に出ることにしたらしい。
「男の子同士で遊んどいで。」
サラリーマンは顔色一つ変えずに
美瑛の正面で道を塞いでいた男の襟を締め上げ
る。

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「かっ…ふごぅ…」
プラプラとぶら下がる足が痙攣を始めた。
「やめろォ!死んじまうよ!」
「うああああー!!」
「大丈夫だよ。死にゃしねえって。」
大袈裟だなあと舌打ちをしながら
渋々襟を離す。
「ミッチー!しっかりしろよぉ!」
「畜生!覚えてやがれ!」
今までのヘラヘラした顔からは
思いもつかない怯えた顔つきで
ナンパ野郎共は転げるように走り去った。

「大丈夫?」
「あ、ありがとうございました。」
「お家どっち?」
「あ、えと。」
「車だから。送ってやるよ。」
美瑛はこんなに年上の男性には自分なんか
ほんの小娘に見えているに違いないと思った。
なぜか自分が女として見られている気が
全くしなかったのだ。

「はじめて。」
男は車を走らせ、後部座席に乗り込んだ
美瑛に向かって静かに話しかけた。
「何がですか?」
美瑛はコインパーキングまで
男と並んで歩くうち、この男が塞ぎこんで
いるのがわかった。もともとこういう人
なのかとも思ったが、寂しそうな横顔を見ると
心がざわついた。
「送ってやるっていって、車にまで乗った子。」
「そう、ですか。」
「どうする?このまま、ラブホテルとか
入っちゃったら。」
「そんなつもり、あるんですか?」
美瑛にはなんだか確信めいたものがあった。
この男には自分を抱こうなんて気持ちはない。
「ないよ。」
「やっぱり。」
思った通り、男は淡々と車を走らせる。
「何か、あったんですか?」
美瑛は思いきって話しかけた。
「最近なんか辛いことでもあったんですか?」
男は運転しながら静かに笑い始めた。
「なんで、わかるのさ。」
「なんだか塞ぎこんで、寂しそうだから。」
「初対面なのにかい?」
「そう、ですよね。」

「もう、ここでいいです。助かりました。」
美瑛は近所の公園の前で車を降りた。
「あんな風に助けてもらって、家まで送って
もらって、なんてお礼を言えばいいか。」
男は自分も車から降りると美瑛の正面に立った。
「じゃあ、お礼にハグしてもらっていい?」
男は美瑛の返事などはなから聞くつもりは
なかったようで、美瑛の体を包むように抱きしめ
頬と頬を合わせて感触を楽しんだ。

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「君も、なんかあったろ。」
「え?」
「最近、なんか辛いこと。」
美瑛は、渉を失った寂しさを他の男の温もりで
埋めようなどとはとても思えなかった。
逆に同年代の男子には警戒心が先行して
男嫌いになりそうな位だった。
でも、この男とのやり取りは違う形で心に
響いた。体は気持ちよくて、暖かかった。
「君とはもっと、話がしたいな。」
男は美瑛に自分の名刺を差し出した。
裏にケータイのナンバーとメールのアドレスが
書かれている。
「最近、第二の人生のスタートを切ったばかり
でね。ケータイから何から変えたんだ。友達に
配って回ってたんだ。ちょうどよかった。」
よかったら連絡ちょうだい。
男は帰っていった。



「空振りかと思ってた。それに俺なんかじゃ
年が釣り合わねぇもんな。」
あれから美瑛はとても迷った。
いつの間にか一ヶ月も放置したままになって
いたのだが、メールしようと決心して文面を
いじくり回しているうちにまた二週間が経った。

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「連絡遅くなっちゃって、ごめんなさい。」
「いいよ。また、会えたから嬉しい。」
美瑛はこの男を嫌いではない。
あの日、車でラブホテルに連れ込まれたと
しても、それはそれでいいかと思う。
でも、心の整理がついていないまま
次の恋をしたくなかったし、恋なんて呼べる
ものになるのか自信がなかった。
「君は、なにがあったの。」
「え?」
「相変わらず、笑顔がぎこちない。」
「そんな。私いつもこんな風ですよ。」
「そうかなあ。もっと可愛らしく笑うんじゃ
ないかなあ。」
嬉しそうに美瑛を覗きこんで笑う。
自分に笑いかけてくれるのが美瑛も嬉しくて
自然に口元がほころんだ。
「そうそう!可愛いぜ。」

男は美瑛より17歳も年上だったが
話は弾んだ。
「俺も久田だよ。中高と行ってた。」
「ほんとですか?」
「よく体育倉庫でセックスして先生に怒られた。」
「………!」
「しなかった?」
「そんな。」
「その顔は、してたろ?うふふ。」
「そんなこと!」
真っ赤で否定し続ける美瑛が可愛くて
すこし意地悪をした。
「どんな体位でしてた?」
「いやぁん。」
「くそ。なんだよ、可愛いなもう!」
「恥ずかしい。もうよして。」
美瑛は渉のことを思い出して胸がちくちく
痛んだが、それを上回る恥ずかしさと
言葉で弄ばれている感覚が麻酔のように
じんわりと痛みをやわらげていた。
「そんな風に恥じらう可愛い女とは
ついぞ縁がなかったんだ。からかってごめん。」
「もう。ひどいわ。」

ランチをして、映画を観て、お茶をして。
日が暮れるまで一緒にいた。
「俺、女房と別れたばっかりなんだ。」
男は黄昏る窓の外を見ながらポツリポツリと
話し始めた。
「学校でセックスしてた、ずっと一緒だった
女だ。大学出てすぐ結婚して。浴びるほど
セックスしてたってのに子どもが出来なかった。」
美瑛は彼の寂しさが胸に染みて、痛んだ。
「俺は仕事で月の半分くらい家を空けることも
珍しくない。女房には何度も仕事をやめて
一緒に来てほしいっていったけど駄目だった。」
美瑛は思う。もし、渉にそんなに望まれたら
何を置いてもついていっただろう。
「どうにもならなかった。愛してたのに
何一つ上手く行かなかったな。」
美瑛はかといって彼の元奥さんを悪く言う
訳にも行かないと黙っていた。
「ごめん。つまんない話しちゃって。」
「いいんです。私は聞いてるだけしか出来なくて
何もしてあげられないから。こっちこそ
ごめんなさい。」
「美瑛。」
突然名前で呼ばれて、美瑛は体に電気が走る。
「君に、慰めて欲しいんだ。」
きっとこう言われるのがわかっていた。
いつ、こう言ってくれるかと待っていた。
「どうすれば、いいですか。」
わかっていて美瑛は訊ねる。
はっきりと言葉にしてほしかった。
「からだと、からだで。」
美瑛は自分の乳首が下着の中で固く立ち上がり
下半身が甘く疼いて蜜がとろりと滲み出たのを
感じた。こんなことは今までなかった。
「おいで。」
ふたりはカフェを出た。

未婚の妊婦2

浅海は念のため病院で診察を受けた。
いいって言うのに賞平も待合室までついてきた。
「賞平くんは帰ってもいいよ。」
「まあ、お腹の子に影響はないって
わかるまではいるよ。」
自分が送ってやって、車からおろしてすぐの
出来事だった。現場のすぐ側にいたのだ。
賞平には後味の悪い事件だった。
「ま、いいか。もうすぐ子どもの父親が
来るからさ。会っていく?」
「そうだよ、さっき美月、浅海のこと嫁って」
そこに産婦人科には不似合いな学生が
バタバタと騒々しく駆け込んできた。
「わ、渉?」
「賞平くん、久し振り。浅海のこと、ありがとう。」
「あさ、み?」
「賞平くん。こいつが父親。」
「え?」

賞平は驚きすぎてしまって顔色をなくしていた。
卓の反応と同じ経緯をたどっていた。
ききたいことは山ほどあるのだろうが
何からきいていいのかわからないのだ。

「引っ張り回されて、突き飛ばされたりは
したらしいけど、転倒させられたり性行為には
及んでないっていうから。多分殆ど胎児への
影響はないと思うよ。」
美月がざっと説明する。渉の顔は強張っていた。
「母さん。」
「あんたは狼狽えちゃ駄目だよ。」
「わかってる。大丈夫。」

診察室から浅海が戻ってきた。
「浅海!」
「渉ぅ!」

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ふたりはひしと抱き合い、お互いを確認し合う
ように何度も頬を寄せる。
「ごめんね渉。驚かせて。」
「何言ってんだよ。お前こそ大丈夫か?」
「赤ちゃんには異状はないって、お医者様
が。」
「よかった。」

賞平は二人から少し離れて美月に手招きした。
「美瑛は、どうしたの?」
「ん。渉から別れ話をしたみたい。
村雨さんが蒲生くんと別れて、
燃え上がっちゃったのかな。」
「大丈夫か?美瑛は渉ロスに耐えられたのか?」
昔から渉一筋の美瑛だったから、心配になる。
「あれから3ヶ月位経つけど、なんとか普段
通りに過ごしてるみたい。」
父親である忍に殴られてケジメをつけられた
話をしてやると賞平は口元を手のひらで覆い
うふふと笑いを漏らした。
「で、あいつ学生結婚?」
「そういうことになるよね。」
「何で今入籍しないんだ?」
「いや、村雨さんが離婚して半年は入籍出来ない
じゃない。それを待ってるとこなんだよ。」
「あ、そうか。」
賞平は納得したように頷く。

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「亮も驚いてたろ?あいつわりと頑固だから
渋い顔してなかったか?」
美月は一度、渉と浅海に目線をやると
あらためて賞平を見上げた。
「あの人は昭和の男で頑固なとこもあるけど
子どもはみんなで育てるものだって。
多分渉が一番苦手な、回りに頼ることを
教えないとって言ってくれたの。」
美月は亮を思ってくすぐったそうな笑顔になる。
「なるほどね。さしたる弊害はないと。」
「村雨さんのご両親も孫が出来るって今から
メロメロみたいよ。」

渉はしばらく浅海の部屋に泊まることになった。
一人にしておきたくないという。
美月はちゃんとお手伝いするんだよと
わざと小さい子に諭すようにいった。
渉以外の全員が笑った。




大事を取り一日休暇を取った浅海。
朝、学校にいくと玄関横の事務室で優子に
呼び止められた。
「浅海先生。朝一で校長室に来いってさ。」
浅海は自分の処遇がどうなるか不安だった。
自分は何も悪くはない。だが、上にどう
思われるかは別問題だ。
浅海は多少気が重いものの、自分で自分を
奮い立たせて校長室のドアをノックした。
「失礼します。村雨です。」
校長室に入ると、見覚えのある小柄で頭頂部の
輝く老人が座っていた。

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「おはようございます。お久し振りですね。
麻生です。」
久田学園の名誉理事にして現役の本校校長
麻生正親である。
「おはようございます。ご無沙汰しております。
今日は、何故、附属第二に?」
「まず、私からお話しさせていただきます。」
附属第二中の校長、松坂宗治が口を開いた。
「吉岡教諭については、昨日付けで依願退職
という形で処理してあります。」
やはりクビか。無理もないが後味の良いものでは
ないと浅海は思う。
「で、村雨先生、お体の方は大丈夫ですか?」
「ええ。お医者様にも問題はないと言われました。」
「何でも村雨先生は、本校の長内先生の
息子さんと結婚されるんだとか?」
「あ、はい。そういうことになります。」
浅海は学園内でもかなりのレアケースだろうと
思う。これを学園側はどう捉えるのか。
そこで麻生校長が代わって話し始めた。
「ウチの学校は先生方のお子さんや親戚の
子どもさんが入学するときには、かなり
学費の優待があるのはご存知ですね?」
「はい。」
「これは本校だけのシステムであり
附属にはないものですが。これは先生方の
経験値を上げる為の独自の工夫なんです。」
浅海は麻生校長の言わんとしていることを
掴みかねて、困惑の表情を見せる。
「学費の優待を受けて入学した自分の身内を
三年間担任していただきます。毎回必ず
他の親御さんから贔屓があると苦情が来ますし
クラスメートたちも常日頃見ています。
ここでどう苦情をさばくか。苦情の出ない
接し方をするか。なかなか大変なことも
多くありますが、これを乗り越えると
教師として一回りも二回りも成長するのです。」
「あの。宜しいでしょうか。」
恐縮しつつ浅海が話を一旦止める。
「それは今回の私の一件と関係するお話し
なんでしょうか?」
麻生校長は鼻の下に蓄えたひげを
もこもこと動かしながら笑った。
「あなたは美月先生と義理の親子になる。
美月先生も仰っていましたが、何かと
やりづらくはなるでしょうね。」
「美月先生から、やりづらければ伏せて
おいてもいいだろうとは言われていました。」
「私は、ここでそのやりづらさを克服する
ミッションを貴女方に命じようと思って
いるんですよ。さらなる成長のために。」
「麻生校長。もうはっきり教えてください
ませんか。もう、わたし鈍くて。」
浅海は少し恥ずかしさを覚えて顔を赤らめた。
「おやおや。これは申し訳ない。村雨先生
には、本校でお勤めいただきたいのですよ。
美月先生と一緒にね。」
他の学校ならば本当にあり得ない話だろう。
「本当ですか?」
浅海は元々自分が中高と通った本校には
愛着もあるし、知っている先生方もたくさん
いるのだ。これから臨月まで勤め上げるためにも
願ったり叶ったりの職場となるだろう。
だが、美月との親子関係はまわりにどんな影響を
及ぼすのか。見当もつかない。
「もし、村雨先生が嫌ならばこのまま
附属で働いてもらって構いません。」
「いえ!嫌だなんてとんでもないです!
本校に行かせてください。」
「じゃあ、新学期からこちらに来ていただく
ことで宜しいでしょうか?吉岡先生の抜けた
分を今度はフォローしていただかないと。」
なるほど、吉岡の抜けた穴はすぐに代わりを
入れるわけにはいかない。
「本校の体育はどうなさるんですか。」
「代わりの先生の目処がつきましてね。
高校の方の熊谷先生の奥さまです。」
麻生校長はふぉっふぉっと楽しげに笑う。
「家族経営の寺子屋みたいですな。」
色々な書類にその場でポンポンと判を押すと
麻生校長はあっさり帰って行った。

あの人と別れて、何もかもが変わっていく。
毎日目まぐるしくて忙しいけど、幸せだ。
浅海は雅也の幸せを願ってやまない。
「あなたも、うまいことやんなさいよ。」
もうメールアドレスも消した。
今どこで暮らしているかもわからない彼に
心の中でエールを送っていた。