鶴屋開店休業回転ベッド

あたしの創作世界の基盤。だけどとてつもなくフレキシブルでヨレヨレにブレてる。キャラが勝手に動くんだ♪

美月と歩と努 (美月と真利村兄弟2)

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「余計なことしてくれたよね」
歩は美月が一人きりでいる頃合いを
みはからって準備室にやってきた。
「あれは先輩とのレクリエーションさ。
俺が企画してやってあそこまで
段取った。努だって楽しみにしてたんだ
なんだってよく確かめもしないで
正義と悪を分けたがるの?
ほんと、大人ってそんなことで
自分が分別ある人間だって思いたい。
そうしないと自分に自信さえ持てないの
可哀想だよね。」
美月が黙って聞いていると歩は
まだまだ滑舌なめらかに続ける。
「先生みたいに世間の型に嵌まった
生き方して満足してきた人には
到底分からないことかもね。でもさ
プレイの重要性ってわかって貰える?」
美月は漸く顔をあげてニッコリ笑う。
歩は予想のはるか斜め上をぶちかました
美月に一瞬どう接していいかわからず
目線を僅かに反らせた。
「話は全部わかった。
あたしが悪かったよ。ごめんな。」
歩は不服そうな顔を向けて美月を尚も
攻撃しようと口を開こうとするが
その前に美月から素朴な質問が来る。
「何で努のセックスを歩が企画すんの?」
「あいつのことは双子の弟の俺が
一番よくわかってんだよ。
あいつが抱かれたがってる男のことは
全部お見通しだからね。」
努はあんな内気な奴だから、一人で
放っておいたら枯れちゃうよ。
歩は自分がお膳立てをして
努は好きな男に抱かれて
抱いた方の男も努の体に満足して。
夢のようなひとときをプロデュースする
自分は、努になくてはならない存在だと
得意気に美月に語ったのだった。
「じゃあ、努は歩がいなけりゃ
好きなやつに気持ちを伝えることすら
出来ないくらいシャイなんだね。」
美月の相槌とも反論とも取れる言葉に
歩は鼻で笑う。
「バカじゃないの?
先生ってほんとに救いようがないよね。
気持ち確かめあって、なんてやってたら
抱いてもらえるものも抱いてもらえなく
なるよ。男抱きたい男はたくさんいる。
でも男と恋したい男なんてそうそう
いるわけないじゃんか。」
美月は曖昧な笑顔で歩を見ていた。
歩は無性に苛立って声を荒げる。
「とにかく迷惑だからさ。俺たちには
もう構わないでくれよ。うぜえったら
ねえよ。」
歩が仕上げに舌打ちを派手に響かせると
美月の手が目にも止まらぬ早さで上がり
歩の頭頂部左下あたりをぺっしと
軽く叩いた。

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「あたしは、うざいって言い方が
死ぬほど嫌いだ。よく覚えといて。」
あとわざと舌打ちをして女ビビらそうと
する男もだ。美月の目は笑っていた。
「……悪かったよ。」
歩が嫌々ながら謝ると、美月は叩いた
部分を軽く撫でた。







努は、あれから今までにない
気持ちを抱えて戸惑っていた。

女は嫌いだ。
それは変わらない。
クラスメートの女子は
女ではなくオバサンだと思うことで
やっと会話ができる。
下世話で、頭が悪くて、
良いも悪いもなく
流行に乗っかって。
貪欲に男を求める。
ああ。いやだ。
女なんて生き物は穢らわしい。
古くから女は血で汚れた
忌み嫌われる生物だから蔑まれた。
よく、わかる。

なのに。

鷺沼先生は穢らわしさから
少し遠くにいる気がする。

そして、いつになく狼狽えているのは
自分の中にある、今まで見ないふりを
してきたものが芽吹き始めたからなのだ。
「好きだとか、愛してるだとか、
生っ白いこと言ってると
結局はお前が傷つくんだからな。
何があっても絶対隠せ。
体だけでその分満足しろ。
普段から一緒にいちゃ駄目だ。
抱かれたいときだけ、抱いてほしい男を
俺が連れてきてやるから。」
歩の言うことはもっともなのだ。
自分みたいなのの恋が成就することなんて
流れ星に三回願い事をとなえることより
よほど難しい。
抱かれてるとき、好きな人が気持ち
良さそうにしていると、錯覚する。
抱かれてるときだけは
自分も好きでいてもらえてる。
そんなことないのも
悲しいほどわかっているのに。

そんな風に閉じ込めてきた
ひとを好きだと思う気持ちが
大嫌いなはずの女に対して
どんどん膨らんでいく。
なんだか歩に申し訳なくなる。
ごめん。俺、なんか変になっちゃった。
お前に教えてもらった通りに出来ないよ。

足がふらふらと後ろめたい足取りで
それでも先生のところへと向かう。







歩が出ていったあと
美月は初めて、行き詰まって泣いた。
正直、新人の頃から男同士のセックスを
どう扱うのか悩まされる件もあった。
それは男なら妊娠しないとか
女の子とのセックスの疑似体験的に
自分より小柄な男子を襲うとか
そんなものだった。
明と修司と行彦は三人でつるんで
下級生の男子をセックス相手に
選んでいた。
あいつらは、どっちもOKな両刀使いだが
ホモセクシャルにも自分達はシンパシイを
感じると言っていた。
実際、あの三人にはセックスもする
彼女がいるのだ。

そんなことを知れば努は悲しむのか。
それとも、何とも思わない?
そんなものだって、自分の混じり気の
ない気持ちを誤魔化しながら。
体だけで、完結するように。
嘘をついて。
自分はあいつの気持ちも
よくわかりもしないくせに。
余計なことをして、逆に傷つける。
自分は何のために教師になったのだろう。
情けなくて、涙が出た。

「先生…?」
努が準備室の引き戸を半分くらい
からからと動かすと、美月の横顔が
目に飛び込んできた。唇を引き結び
それでも止められなかった涙が
幾筋も頬を流れていた。
「美月、先生?!どうして」
努の声に驚いた美月は、眼鏡を引き上げて
もう片方の手のひらで大きく顔を拭った。
「あ、努。や、何でもないよ。
変なとこ見せちまったな。」
美月は慌てて何でもなかった顔を作るが
目が濁って赤い。辛い涙を流したあとの
瞳で無理やり努に微笑んでみせる。
「いや、さ。ごめんな。なんかあたし
勘違いで余計なお世話だったみたいで。」
「先生?なに、先輩から?…あゆむ?」
そうか。きっと歩が美月先生に何か言った
のだろう。あいつはあいつなりに俺を
思ってくれてるんだけど。
「あの日は渡り廊下であの三人を
見掛けてね。顔つきが、まああーいう
ことするノリだったんだよ。あいつらが
第二グラウンドの方に行ったとき、何か
おかしいなって思って。」
陸上部の大会で誰もいないはずの
グラウンドに三人雁首揃えて何がある
ついていってみれば努もやってきて
倉庫に入っていったので、美月は正直
軽くパニックになったという。
倉庫の鍵を管理している体育の水沢主任
のところに行こうとして、用務員の小池
さんのところでも鍵はあるなと取って返し
倉庫の前に戻ると外からなぜか南京錠だ。
あれは今思えば歩がかけていったのだが
美月は始末書と修理費を覚悟で扉を
回し蹴りで蹴破ったのだった。
「ごめん。歩が先生に何か意地悪を
いったんだろう?あいつ、言うこと
キツいからさ。気にしないでよ。」
美月は、違うよ歩がどうとかじゃなくて。
と要領を得ない受け答えをした。
努は思わず美月の頭を胸で包み込むように
守るように抱き締めた。美月の方が3cm
くらい背が高いから、座ってて貰わないと
こんなこと出来なかった。努は少しだけ
嬉しかった。

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「先生は元気に笑ったり怒ったりたまに
空回りしたりドジやったりしててよ。
へんに俺たちにシンクロして浮いたり
沈んだりしちゃっても仕方ないよ。」
美月は大人しく努に甘えてくれた。
立ち上がらずに努の腰に手を回し、
何度か鼻を啜る音をたてた。
努は腰に回る美月の手の感触に
だいぶ感じてしまって、我慢するのに
ひと苦労だった。