鶴屋開店休業回転ベッド

あたしの創作世界の基盤。だけどとてつもなくフレキシブルでヨレヨレにブレてる。キャラが勝手に動くんだ♪

綺麗な花には棘がある (美月と真利村兄弟9)

美月が亮と結婚して
左手薬指にマリッジリングなんか嵌めて
南国マリンスポーツ三昧の新婚旅行から
戻ってきた。

歩は美月に辛く当たることがなくなったし
努は阿部との仲を少しずつだが暖かいものに
してきたようだった。
いつも努を迎えにくる阿部の手が
やさしく肩に触れて二の腕を撫でた後
背中をすべって腰に添えられる。
美月がはじめてそれを目撃したとき
なんて素敵なカップルなのだろうと
幸せ一杯の新妻にもかかわらず
羨ましいような気持ちにさせられた。
美月はこの二人の絆を強くしたきっかけが
自分にもあったことを知らなかったが
この今の満たされた気持ちと
相手を思いやる暖かさは
このあと起こるだろう苦難に立ち向かう
糧になるだろうと確信した。

それは大人になってから
世間の無理解や肉親との関係などといった
現実的な障壁が立ちはだかる
そんな近い将来のこととして
美月は捉えていた。
だが、もっと早く二人の間を引き裂こうという
身勝手なだけの邪魔が入るのである。

「阿部くん。あたしとつき合ってくれる?」
D組の赤井瑞穂は、放課後にC組の阿部佑樹を
呼び出して告白しようとしていた。

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阿部に話があるというと、放課後はダメだと
言われてなんとか昼休みに時間を貰ったのだ。
「ごめん。俺、好きなやついてさ。」
彼に彼女がいたとは知らなかったが
誰だろう。
「つき合ってるひとがいるのね?
全然わかんなかった。一体誰?さやか?
それとも玲奈?」
瑞穂は美人で有名な友人の中で
阿部ってイケメンだよね~なんて
話が出たことを思い出していた。
みんな敵なのかな。
油断できない。
それ以上じゃない風に話を流しておいて。
「え、そんなつき合ってるって訳じゃ。」
阿部は言葉を濁す。
照れる阿部を見て、瑞穂の中に嫉妬が
芽生えた。それは嫉妬というよりも
自分が認められなかったという侮辱にも
似た不当な扱いを受けたような気持ちだった。
わたしは、かわいい。
美容にも気を使ってるし
男子だって女子だってわたしに一目置いてる。
わたしよりかわいい子なんて
学校には数えるほどしかいないわ。
そんなわたしに釣り合う男として
この阿部佑樹を選んだのは
容姿、成績、素行、交友関係、どれも
バランスがとれて自分に見合う男と思った。
わたしからの告白に喜ばない男がいるなんて
思ってなかったわ。
じゃあ、その好きな子っていうのは
どんなにきれいな子なのかしら。
わたしは絶対に敵わないのかしら。
「放課後ダメって言われたのは
デートだからなの?」
「いや、もう勘弁してよ。とにかく
俺、つき合うとかないから。」
「あ、阿部くん。」
阿部はその場から逃げるように行ってしまう。
瑞穂は唇を噛む。
どうして?
なんでわたしが
フラれなきゃいけないのさ。

「えー。瑞穂の告白を断るなんて!」
さやかがいかにも心配してる風な猫なで声を
出して体をくねらせる。
「酷いねー阿部っちってば。瑞穂みたいに
きれいな子の誘いをそんなにあっさり
無下にするなんてさあ。」
玲奈もぶりっこ全開で同調してきた。
でも、誰にも言ってないのに五時間目の
休み時間にはみんな知っていた。
わたしが、阿部に告白を断られたこと。
玲奈は阿部と同じクラスだ。
でもこの間まで普通に阿部と呼んでいたのに
もう阿部っちだ。この距離感の編纂は
何を計算してのことなのか、あざとさが
鼻について瑞穂は苛々した。
悔しくて仕方がない。なんでわたしが
こんな目に遭わなきゃならないの。


今日は早く帰って原宿に行こう。
先週買ったミニスカートとキャミを合わせて
あのヒールの高めのサンダルで。
少し大人っぽすぎるけど、男の子が振り返る
鉄板のコーデだから。
瑞穂はペチャクチャとおしゃべりをしてる
女子たちを尻目にさっさと昇降口に降りる。

そこで、見てしまう。

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阿部と努が寄り添い、学校を出ていくのを。
真利村努。あいつ、男に手込めにされそうに
なったやつじゃん。そのずっと前からホモ
だって噂があった。なんなの?これ。

あいつ、双子の弟は朱美とセックスばっかり
してるらしいけど弟が弟なら兄も兄なのね。
でも、この赤井瑞穂の狙った男子を横取り
するなんて良い度胸じゃないさ。
上手くいかないもどかしさ、
認められなかった悔しさ、
思い通りにならない気持ちの捌け口を
見つけた瞬間だったのだ。


瑞穂は原宿に行くのをやめて
高校の方の有名な先輩をたずねた。
噂ではあの真利村を襲ったとされている
三人組だ。想像とは違いカッコ良くて
瑞穂は慌てた。この中の誰か一人でも
いいかも、なんて思い始める。

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「つとむ?いやあ、あいつは可愛いよ。」
関明は日焼けした肌に白い歯を輝かせて
爽やかな笑顔をつくる。
「そうそう。健気というか。」
山根修司はウェイトリフティング部で
筋肉がコンパクトに盛り上がるセクシーな
体型だ。少し武骨ながらなかなかいい。
「かわいいよな。助けてやりたくなる。」
沢田行彦は背が高く、はにかんだ表情が
母性本能をくすぐる。
なんなのよ、この人たち。
すっごいレベル高いじゃない!
「君は、つとむの友達?あいつが苛められる
ようなことあったら言ってよ。俺たちが
シメてやるからさ!」
瑞穂はまたこの三人に努を手込めにさせて
その様子を写真に撮り、嫌がらせをしようと
していたのだが。
とても無理だ。
あのホモ野郎!
誰でも男相手ならこうしてたらしこむのか。
でも、虐げ甲斐がある。
いつのまにか瑞穂の目的が
自分に釣り合うイケメン彼氏を持つことから
努を苛めることにすりかわっていった。

瑞穂は仕方がないので
運動部の力の強そうな女子に手伝わせ
裸に剥いてやろうと計画した。

冷静になるとピンの来ていない苛めだが
ホモを辱しめる方法が、瑞穂には正直なところ
よくわからないのだった。