鶴屋開店休業回転ベッド

あたしの創作世界の基盤。だけどとてつもなくフレキシブルでヨレヨレにブレてる。キャラが勝手に動くんだ♪

佑樹とけあき

相模華秋。さがみけあきとは俺の姉ちゃんだ。
俺が小学校三年の時に死んじまった母ちゃんの
代わりにずっと一家の主婦として働いてきた。
うちは昔っからの銭湯だ。
親父を手伝って銭湯のおかみさんになり
家に帰れば主婦となり
俺の母ちゃんの役までやってくれた
姉ちゃんはまだ高校二年だったのだ。
学校ではほぼ寝たきり(笑)で
随分先生にも怒られたらしいけど
なんとかブービーの成績で卒業したよと
笑っていた。

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三年前、銭湯の仕事を手伝い同居してくれる
という奇特な男性が現れ、姉ちゃんと結婚
した。義兄さんは小太りの穏やかな人で
やや短気な親父にもいつも笑顔で接して
くれている。
でも俺は姉ちゃんをとられたような気がして
このやさしい、だれも責めない兄を責めた。
でも何も言えないから、目で責めた。
だって兄さんは何も悪くないから。
俺は目付きが悪くなって
性格が悪くなって
わざと人に辛く当たったりするようになった。
自分には普通のことなんだ
自分はそんなやつだから
あんなやさしい兄さんにだって、
辛く当たる。そうだ。俺は嫌なやつ。

中学に上がって残念なイケメンと言われる。
誰に言われたんだったかなあ。
中学ではもう少しきちんと
人間関係構築しようと思って、
人に辛く当たる→人と深く関わらない
と方針転換したんだけどね。
あ。美月先生だ。
あの時は脇をくすぐられた。
もっと笑えよう。
ほっといてください!
みたいな。
俺はまだモヤモヤしてて
女の子から告白されても
冷たく断ってわざと泣かせたり。
うわべはそこそこに人とつき合って
無遠慮に俺のなかに入ってこようと
するやつには辛く当たって
追い出してやるのだ。
美月先生はそれが残念だって。
言ってたのかなあ。
単に笑い方が歪んでたからなんだろうけど。

三年になってから体育の授業で一緒になる
隣のクラスのアイツが目に留まるようになる。
双子の真利村兄弟。
兄の方の努だ。
気になって仕方がないのだ。
体の芯から匂う何かが、俺の胸を締め付ける。
何なのかはわからないんだ。
どうしよう。わかんない、この気持ち。

ある日弟の方の歩が俺に話しかけてきた。
「阿部、くん。」
歩は俺の気持ちをすべて見透かしていて
からかおうと思っていたんだろうな。
なんか、話しかけられたときに全てわかった。
「うちの兄貴。ホモだぜ?だからだろ?」
思ったよりドギツイ言い方で俺に決断を
迫ってきた歩。
「無理矢理やられるとね。すごい悦ぶよ。
滅茶苦茶にしてやってもいい。Mだからさ。」
俺はそんな風に言われて何故か複雑な気持ちに
なっていた。努をこっぴどくひどい目に
遭わせて凌辱して溜飲を下げようという
冷酷な気持ちと、自分の想いを成就させたい
という一種誠実な気持ちが同時にわいたのだ。
「努を体育館の裏に呼んでやる。
そのあとは用具室ででも犯してやって。
上玉だぜ?うちの兄貴はさ。
兄貴じゃなかったら俺がやりまくりたいくらいだ。」
息が詰まって苦しくて、下半身が重く熱く
なってきた。
「満足させてやってよ。花に水をやるような
気持ちでさ。体で愛してもらうのが
何よりのしあわせだからさ。」
俺はこの胸の締め付けられる想いは
ことのほか度外視されていることに気付く。
こいつ。なに考えてるんだ。
俺は体育館の裏で努をだきしめて。
用具室につれこんで。
身体中にキスをした。
たまらなかった。

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だけど、どうしても自分の気持ちを置き去りに
努の気持ちもわからないままに
最後まで抱くわけにはいかなかったのだ。
努は俺に平手打ちを食らわして
「何のつもりだよ。舐めんじゃねえぞ!」
そうキッとした目付きで俺を睨んだ。
しっかりと切った啖呵も様になっていた。
その瞬間、俺はもう家族のことや回りの
友だちのこと全部がどうでもいいものに
変わった。俺は、もうこいつのことしか
考えられなかった。

キスしている間、努のあげる声が
頭から離れない。
よがって吐息と一緒に唇から溢れる声が
俺の頭の中をエンドレスで流れる。
そんなものにさえ俺の分身は律儀に反応して
反り返ったりお辞儀をしたりを繰り返した。

それからもう俺は努に認めてもらうために
まとわりついてあいつに尽くした。
今や俺たちは離れられない存在だが
努を好きになったことは、俺の色々な
無駄な感情を一切合切清算してくれた。
俺は努の両親に紹介されるとき
努の口から
俺の恋人といってもらえたことを
嬉しくくすぐったく思い出すが
うちの家族には敷居が高いなと思う。
今のところは親友と言ってあるが
そんな友だちを家に連れてくることも
ここ数年なかった俺だったから
親父も兄さんも努にやさしくしてくれる。
でも姉ちゃんだけは努を見る目が
ちょっとだけ違っていたんだ。
「ゆうちゃんはさ。努くんのこと、
好きなんだ?」
その好きが何を指しているのか
俺は判断に困った。

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わかってもらえもしないのに
説明しようと思うほど俺も人間が出来ては
いなかったし、余計なことを言って努に
負の感情を抱かれても困ると思った。
俺が黙っていると姉ちゃんは笑って続けた。
「ゆうちゃん、変わったからさ。
母さんが死んでからちょっぴり拗れちゃった
気持ちがいっぺんに解れた感じ。あれは
少しくらい仲のいい友達が出来たからって
レベルの変わりようじゃないもん。努くんの
ことすごく大事にしてるしね。」
「俺は努といるのが居心地いいだけだよ。
色々な話ができるし、あいつに話すと
その後気持ちの整理がつく。それが良い方に
出てるだけだと思うけど。」
姉ちゃんは頷くとしばらく黙っていたけど
うふふと悪戯っぽく笑った。
「わかるのよ。あんたたち。お互いをすごく
愛してて。慈しんでてね。」
迂闊なことに俺は顔から火が出る勢いで
真っ赤になった。
「うちは私たち夫婦が継ぐから気にしないで
いいのよ。あんたは自分が一番しあわせに
してあげたい人と一緒にいてあげな。」
姉ちゃん。なんかノリノリ。
実際俺が一生誰とも結婚しないとか
言ったら親父がどう反応するかはわからない。
それでも姉ちゃん夫婦があとを継いでくれて
いるのは、状況としてはありがたいことだ。
「努くんならいいよ。」
姉ちゃんはすべてわかっているように
俺に微笑んだ。

何でかわかんないけど
努はあれだけ弱いのに、強い。
柳のようにしなやかで
曲がるけれど絶対に折れない。
時折鞭のように相手を打ち返す。
だけど努から一方的に攻撃するようなことは
決してない。
あいつが大嫌いだという
メス犬のような女子とケンカになっても
(事実あいつは顔に出るから女子からケンカを
売られてしまうこともあるのだ。)
過剰に相手を中傷したりはしない。
ましてや自分からケンカを売るようなことは
絶対にしないのだ。
普通と言えば普通なんだけれど
俺は見るたび惚れ直して、ベッドの中で
ご褒美つきで賞賛する。
「俺は腹黒いんだよ。死ねブス!とか思って
いるけど口に出さないだけさ。」
こんな毒をさりげなくスパイスのように
吐けるところも、その唇がちょっと普段より
つきだしてぷっくりセクシーになるのも
堪らなくかわいい。


俺たちはもうすぐ中等部を卒業して
高等部に上がる。
「あんたたち、もういわくつきの二人だから
一緒のクラスで担任は坂元先生だね。」
と美月先生が太鼓判を押す。
坂元先生って。
姉ちゃんの担任の先生だった人だ!