鶴屋開店休業回転ベッド

あたしの創作世界の基盤。だけどとてつもなくフレキシブルでヨレヨレにブレてる。キャラが勝手に動くんだ♪

女と男

「朱美は歩があんまり刺激的すぎて、
少しばかりイカレちまってるのかもね。
以前はもっとさっぱりした娘だったよ。」
産休を半年残しているのに
学校で後輩の松田ちゃんの悩みをきいたりと
ちょくちょく準備室に来る美月。
双子の息子たちは、実家のお母さんが
見てくれるという。
俺は最近の歩と朱美の目に余るプレイについて
美月の見解を聞いている最中だった。
「美月先生!」
努が美月の匂いを嗅ぎ付けて甘えに来る。
俺と話をしているのに気づくと
丸椅子を美月のうしろにくっつけて
お互いの背中を合わせるように座った。
美月は首をすくめるようにして
真後ろの努の頭に頬ずりした。
くそ。イチャイチャしてんじゃねえぞ。
美月はこの双子に優しすぎる。
努はホモだし歩は鬼畜だ。美月はこの二人に
胸を開き、聖母の慈愛を惜しみ無く注ぐ。
なんだよ。俺にも優しくしろ!
「賞平くんはなにヤキモチやいてんのよ。」
俺は図星をさされてむくれた。
「お前は俺にくっついてくるくせに
俺からくっついていくと嫌がるじゃん!」
「タイミングが悪いんだよ。それにそんなの
本当にたまにじゃないか。」
努は後でクスクス笑い出した。
「坂元先生も美月先生が好きなんだ?
競争率高いなあ。危ない危ない。」
「あー女房がいなかったら略奪に走るね♪」
「嘘つけ。妹に甘えたいなんて図々しいぞ。」
一通りのお戯れが済んでから
俺は真顔に戻って言った。
「朱美、あのままで大丈夫なのかな。」
あいつは今、歩に溺れている。
この年頃の女があんな風に体で繋がれている
様子は俺はあまり見たことがない。
俺も無差別に女を抱いてた頃、友達とも
沢山やったが皆事が済めば普段に戻る。
心が縛られ辛くなることなんかなかった。
「朱美は歩に惚れてる。歩もあれでいて
朱美にはメロメロなんだよ。だから俺も
我慢してるんだ。しんどいけどさ。」
努が自然に会話に合流する。
「歩は刺激が強すぎるんだよ。」
俺はついさっき美月が言い出したフレーズが
気に入って使ってみた。
「あ、先生今、よく鬼畜だって
言わなかったね。先生は歩のこと
好きじゃないって思ってたのに。」
あ。なるほどね。美月ならではの好意的な
言い回しだったと言うわけか。
「朱美は少し心配だね。話、してみるよ。」
美月は立ち上がると努に濃厚なハグをして
準備室から出ていった。

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残された俺と努。
「坂元先生は美月先生がどうして俺たち
兄弟にこんなにやさしいのかわかる?」
俺はそっけなく首を横に振った。
「一緒に悩んでくれたからだよ。だから
この女嫌いのホモである俺も、
彼女に対しては蕁麻疹も出ないし吐き気も
しない。キスされてもあったかいんだ。」
あれ?あいつとのつき合い9年の俺が
のろけられちゃってる?
「大丈夫だ。お前が卒業する頃には
お前にディープキスくらいはしてやるから。」
くやしかったので、阿部がいるのも承知で
嫌がらせを言ってみた。
「嬉しいな。どうせなら抱いてほしいけど。」
見事にやり返された。
努は俺の首筋に口を寄せて
ふうっとたっぷり吐息をふきかけた。
「なかなか素敵だよ。歩にやられないように
気を付けてよね。」
努は楽しそうに出ていった。

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俺は金縛りから解けるまで暫く時間が要った。
改めて思い出すとゾッとした。
努にしろ歩にしろ、俺の体なんかいとも
簡単にいいなりにさせそうだったからだ。
美月はすごい。
俺はだめだよ。


美月は朱美と話ができないか
校内を少し探した。
朱美は歩と二人、珍しく教室にいた。
なぜって教室でおっ始めるには
ひとり残らず帰るまで待たないといけない。
そしていつ誰が戻ってくるかわからないから。
机をくっつけて椅子を寄せ
二人、机上では問題集を開いている。
その下では、二人の足が互い違いに重なって
もぞもぞ動いている。
ぎこちない動きで少しずつ歩の股間に乗る
朱美とそれを導く歩。
『あーもう!こんなところで!』
どうしてだろう。
男同士にしろ男女のカップルにしろ
学校でセックスに至る現場を自分は
本当によく目撃するのだ。
美月は何事もなかったように二人に
話しかけた。
「あ、美月先生。こんにちは!」
朱美は表情がエロくなりかけたが
なんとか作り笑いでしのいだ。
「美月先生はいつもこのタイミングで
現れるって聞いたことあるよ。ある意味
ムードクラッシャーな。」
歩はこれから背面座位でいたそうとしていた
ことをあっさりとばらす。
「わかってんなら帰りなさい。学校での
猥褻行為は厳禁です。」
いろんな生徒に何度となく言った台詞を
美月は今一度口にする。
「なにさ。美月先生だって耳掃除なんか
いやらしくやってたくせにさ。」
「やだ。歩なんで知ってんの。」
美月は笑う。結婚前は土曜の放課後
準備室で亮に耳掃除なんかしてあげてた。
ことのほかエッチな雰囲気になり、それを
誤解した生徒たちに妙な噂もたてられた。
そういえば明に現場を見られたな。
「あのさ、朱美とちょっと話したいんだけど
貸してもらってもいい?」
美月は面倒になって用件のみ口にした。
歩の目が険しくなる。
「お説教かよ。俺にしたらいいだろ。」
歩は朱美を愛してる。それは本当だ。
朱美をほったらかすことは絶対にないし
いつだって守るべきものとして
寄り添う。いい男だ。
これで浮気がなかったら満点なんだけど。
「女同士の話だよ。男は先に帰ってて。」
歩と朱美は名残惜しそうに離れて
歩は別れ際、朱美の瞼に左右かわりばんこに
キスをしていた。

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常人には信じられない危ういバランスに
美月は毎回ため息をつく。
歩が二人でいるときあんなに素敵でなければ
朱美は浮気をした歩をひっぱたいてお別れ
できるだろう。
極端なのだ。歩と言う男は。

「朱美を心配してるよ。賞平くん。」
美月はまず賞平の思いを伝えることにした。
「朱美の成績が下がったのもそうだけど。
朱美があんまり歩の浮気に傷ついてる
みたいだからさ。心配してる。」
朱美はさっきまでのやさしい歩に酔ってる。
もう彼は浮気をしないぐらいに思うのか
昔を思い出すような顔をした。
「坂元先生には心配かけて悪いことしたと
思ってる。ちゃんと勉強もして成績も
戻さなくちゃね。頑張るから。」
問題は何一つ核心に触れていない。
美月は本音を言った。
「朱美はさ。歩と一緒にいて幸せな気持ちと
歩に浮気されて辛い気持ち。どっちが
大きいのさ。」
「朱美だってわかるよね。あいつがそう
簡単に浮気をやめないって。あたしは
それが心配。あんたが浮気されて辛い分
リカバーしようとして歩にすがりつく。
それをあいつはやさしく受け止めるけど
浮気はやめてくれないんだよ。あたしは
あんたがどれだけ傷ついてるか、それが
心配なんだ。」
朱美は報われない。
世の中には浮気男にも最後の船着き場と
割りきり愛を注げる女たちもいる。
そんな風にできるのかと言えば
朱美には無理なんだ。
だからこそ歩は二人きりの時
あんなにも朱美にやさしい。
すべてを知っていて計算ずくで行動する歩。
あいつだって嫉妬深いのは
こんなんで朱美に愛想尽かされるのが
怖くて堪らないからだ。
時には高圧的に誤魔化そうとする。
そのあと甘い飴を用意する。
朱美はいくら辛くても歩が好きで
歩から絶対に離れられないのだ。
そのあんまりなつなぎ止め方に
美月は不安を掻き立てられるのだから。

「ごめんね。美月先生。
もう卒業したのにこんなに心配させて。
つらいけど、仕方ないの。」
朱美は我に返ったように心許ない表情になる。
「きっとあいつは、あたしが浮気を止めたら
あんなにあたしを愛してくれないよ。」
美月は驚いた。
そんな風に思って歩の浮気をやり過ごし
そのあと必死で追いかけて抱いてもらっていた
朱美はきっと傷だらけだ。
想像しようと思っただけでもうつらかった。
「朱美。可哀想に。」
美月はもう何も言えずに朱美を抱き締めた。
朱美は思った以上に静かに涙を流していた。


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