鶴屋開店休業回転ベッド

あたしの創作世界の基盤。だけどとてつもなくフレキシブルでヨレヨレにブレてる。キャラが勝手に動くんだ♪

懐くとかわいくなってきます 1

努が心を許した相手には
とことん懐くというのは
美月を見ていると薄々わかるのだが。
まさかこんなに懐くとは思わなかった。
「せんせ。さよなら。」
放課後廊下ですれ違うと、かわいい顔で
手を振ってくる。
少年とはいえもう高校生だ。
まだ男性ホルモンが猛威を奮う前の
髭も生えず声変わりもしていないような
透明感のある綺麗な少年の雰囲気があるのは
珍しいのだが。
隣の彼氏にいつもかわいがられているからなの
だろうか、俺は下衆な想像をめぐらす。
「さようなら。」
心なしか阿部が仏頂面のような気がしたが
気のせいだろうか。

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美月にまとわりついている努を見ている分には
なんてことない顔をしているのだが
相手が俺だと話が違うのかな。
なんせ努は生粋のホモセクシャルだ。
俺だってストライクゾーンに入っていない
とは限らない。なんて。
懐いてきてからは、努とはハグしたり
頭を撫でたり、努から俺にくっついて来たり
何かと触れあうことが多くなった。
美月に向けるほどではないが、俺にも
かわいい猫のような笑顔を見せてくれる。
たまに、俺が準備室で書類を作っていると
椅子に座る俺の背後から、おぶさるように
くっついてくる。

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「どうした?」
ここで喉がゴロゴロ鳴っていれば
軽く会話をして帰っていく。
鳴っていなければ、しばらくそっとしておく。
にゃあん。と、こちらを伺うような声がしたら
こちらから撫でてやる。
「どうしたんだよ。阿部とケンカでもした?」
図星だったようで、ひぷ、と鼻をならした。
「どうせ、阿部が女子の誰々にやさしく
してたとかいうので拗ねてんだろ。」
努はそんなときは一切阿部と言葉を交わさず
自分のやきもちが治まるまで
一人で拗ね続けるという。
阿部は一人うろたえオロオロしているのだろう
想像すると笑えてしまうが、なんだこれ
俺、当て馬みたいになんないか?
俺はデスクに向かったまま、おぶさってくる
努の頭を撫でながら顔を見ずに話す。
「きっとお前がこんな風に拗ねてるのも
阿部にとってはかわいくみえんだろ?
みせちゃえばいいじゃん。」
「やだ。はずかしいもん。バカにされる。」
「変なヤキモチやいて恥ずかしいのは
しょうがねえじゃんかよ。阿部ならバカに
なんかしねえだろ。」
努はまあ、いい加減阿部と離れているにも
寂しくなるタイミングだったんだろう。
「あん。せんせ、ありがと。」
努は俺の後頭部にすりすりしたあと
すぐに準備室を出ていった。
かわいい。
なんだあの白痴にもにたかわいらしさ。
あいつ学年でも20位以内には毎回入る
秀才でもあるんだよ。
かといって美月のように甘え方師範代級の
甘え上手ではないんだ。
甘える相手もそう何人もいないし
いつもはあの歩や朱美の面倒を見ている形に
なっているから、自然と自分を抑える術を
知っている。姉がいるようだが、関係性は
分かりかねる。なんか論文一本書けそうだ。
阿部は姉ちゃんがいる。
俺が新任の年から教えていたからよく知ってる
のだが、お母さんが事故で亡くなったりして
あの頃は大変だった。阿部は姉ちゃんを母親
のかわりにして育ってきた。純粋な弟気質で
多分努にも甘えているのかと思っていた。
なんか、違うみたい。
お互いを甘えさせたり甘えたり、バランスが
いい感じなのだ。へんに拗れる前に
二人とも素直になれる。
いいカップルだ。
俺なんか七つ下の女房に操られるままだし
甘えてこられることもない。
母は強し、女も強し、今やダブルの美雪は
向かうところ敵なしだ。
俺は自分で言うのもおかしなものだが
かなりの兄貴キャラだと思う。
かなり年配の人にも甘えてこられることは
多い。自然とそうなるのである。
まあ、だから努が甘えてくるのも
これが普通の形なんだと納得だし
俺はやり易い。これが阿部の不興を買うのは
また、別の問題だろう。

「なに、今度はヤキモチをやり過ごす方法を
教えてほしいのかい?」
美月は俺の顔を見るなり開口一番
ぶちかましてきやがった。
「何も言ってないでしょうが」
「大体わかる。あたしは女だけど
賞平くんは男だからなー。」
そう。美月は聖母で俺は俗な男なのだ。
「別にそういうんじゃないって。努は
単に賞平くんをパパだと思ってるだけ。
お兄ちゃんの方が近いかな。佑樹には
そこまでカバー出来ないし求められてない。
でも佑樹にはちょっと不満なんだろうね。」
パパと言われると困るのだが
お兄ちゃんにヤキモチを妬くのは
かなりなこまったちゃん彼氏だろう。
「ヤキモチは理屈じゃないから。」
美月は楽しそうに笑う。
いいなあ、何をしても裏目に出ない女は。
美月には昔からなんだかそんなところがある。
何かに護られている。
それを世間では人望とか人徳とか言うことも
あるんだろう。美月には敵わない。