俺とおまえ3
たまに
「俺はもう妻に愛されていないんじゃないか?」
とか思う。
たまにね。
そんなことを考えていると
いつもの妻の言動がフラットに見られなくなり
たまらなく寂しくなってしまう。
本当は、妻は俺に首ったけなのはわかってる。
それを素直に表現してくれないのは
昔からなんだけど、ここ近年特に酷い。
二人きりの時は、キスするのに迷う必要なんか
ないだろ?それを察して避けたり離れたり
するなよな。キスくらいもっとちゃんとしようよ。
そんなに嫌なのかよもう俺のことなんか愛して
ないんだろーウガーくそ~
ってごねると、少し濃い目のをしてくれる。
何だかんだ言って妻の頬は淡く紅潮しているし
キスし終えた後のため息だって熱い。
妻は言う。
「今さら旦那相手に真剣に恋愛してたら
疲れちゃうよ。」
疲れちゃうのか?何でだよ!
「実は。いつも我慢してる。考えないように
してやり過ごしてるんだよ。」
何を?
「例えばね。朝、亮が起きて顔を洗って
ワイシャツ着て。朝御飯食べるでしょ。」
ああ。
「その時、もしあたしが亮に抱きついて
離れなかったらどうなるよ?」
俺は想像してデレッと鼻の下を伸ばした。
それ、いいじゃん。
もう俺のひざに座って、頬擦りなんかして
温もりを感じあっていたらいいじゃん。
「朝飯、出ないよ。あんたに抱きついてたら
トーストだって焼けないし、珈琲だって
淹れられないし、そもそも弁当が詰められない。」
んん。
「渉や卓も起こして朝飯食わさなきゃなんないし、
合間に洗濯も回してるし、キッチンの片付けだって」
美月。いや、そこまでずっと俺にぺったり
くっついていたいのか?
「ブレーキ掛けんのは結構たいへん。」
おまえ。極端だな。もう少しなんとか塩梅
できんのかい。
「出来なくなるのはこわい。」
じゃあ、夜は?それこそ夜ならいくらだって
一緒にいられるんだし。邪魔するものは
なんにもないじゃない。
「だって。もうこれ以上好きになりたくない。」
俺は不覚にも一緒に胸の痛みを味わってしまった。
一歩間違えば日常を逸脱してしまうほど
そんなに俺を好き?ねえ。
「ずっとだよ。高校のときから。」
あー。もう。どうしてそんなに可愛いんだよ。
くそう。甘い。甘酸っぱい!
おばさんの鎧を被った美月の中身は
あの頃からちっとも変わらない
純粋に俺を好きでいてくれてる
かわいいオンナノコだった。
俺はだいぶ粘って、美月にその鎧を外して
もらう日をつくってもらう約束を取り付けた。
土曜の夜に。
また、鎧をつけるのは日曜の夜に。
他のときには、お前の気持ちを掻き乱したり
しないからさ。
土曜の夜。美月から俺の首にぶら下がる
ように抱きついて、キスをねだる。
「亮が悪いんだからね。」
俺は不敵な笑み(の、つもり)を浮かべて
美月を布団に押し倒した。