鶴屋開店休業回転ベッド

あたしの創作世界の基盤。だけどとてつもなくフレキシブルでヨレヨレにブレてる。キャラが勝手に動くんだ♪

反抗期

「そんな目くじらたてなくてもよくね?」
卓は渉の愚痴を聞いてやりながらも
からかうのも忘れない。
渉は眉間に思いっくそシワを寄せる。
「だいたいさ。どこの家だって普通はもっと
子どもには隠れてイチャイチャするもんだろ?
俺だってやるなとは言わないよ?でもいい年
してみっともないとか思わねえのかって話だよ。」
卓は面白そうに笑う。
「母さんてさ、かわいいよな。きっと
もっとすんなり普通の女の子に生まれてたら
男を振り回す悪女になってたよ。」
「俺はあの人はいい男でいてほしいけど。」
「うわ、母性の上にそんな無理なことまで
求めちゃ可哀想だろ。あの人は親父といる
限り悲しいぐらい女なんだしさ。」
「それがキモいんだよ。」
渉は本当に忌々しいとでも言わんばかりの
顔を作る。
卓は遠い目をして何かを思う。
「でもお前は今まで散々やらかしてきて
よく母さんにそんなに冷たく出来るよな。」

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双子たちは幼稚園の頃からの彼女がいる。
卓の彼女は、松尾鈴。すずと書いて、りん。
渉の彼女は、緒形美瑛。これでみえいと読む。
どちらも美月の若い頃からの友人の娘で
ほとんど生まれたばかりのころからの
つき合いになる。

中学からは四人揃って美月の教え子となり
早熟だった美瑛は、渉と深い仲になっていった。

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どちらかといえば奥手なタイプの渉は
照れ屋で鈍い男子だったが、巧みな美瑛の
アプローチに応えてつつがなく男になる。
まだ二年生だった。
その頃、卓は鈴にキスしようとして
拒まれたりと普通の中学生の甘酸っぱい
思春期をすごしていたのだが
渉はいかにして隠れて美瑛とちちくりあうか
そんなことばかり考えていたのだ。
学校でもあらゆるところに潜り込んで
二人チュンチュンしているのを他の先生に
しょっぴかれてきたりして、美月を困らせた。

「あれは母さんもかなり立場上、ヤバかっただろ。」
「悪かったと思ってるよ!もう!」
渉はいまだに素直になれない。

美月も気まずかったのだろう。
雑用を買って出ることも多く、
学校でも家でも何かしら仕事をしていた。
ある日、美月が夜遅くまでリビングで
球技大会の報告書をまとめていた。
そこへ深夜番組を観にきた渉とかち合った。
「なんだよ、母さん。これだけは観たいんだ。
終わったらすぐ寝るから。」
不貞腐れた渉は言い訳をしながらも
大きな舌打ちをした。
美月はため息をついたあと、切り出した。

「あんたたち。避妊はしてるの?」

それが渉には許せないほど腹立たしかった。

美月はここだけはきちんとしないといけないと
ずっと質そうと思っていたことだったのだ。
渉はといえば、一番触れてきてほしくない
セックスという隠したい行為を剥き出しに
されるような一言だった。
自分でもたまには避妊具は買った。
だが雰囲気に流されて、いちいち装着する前に
入れて動くのが普通になっていった。

そんなルーズなやり方をしているといえば
怒られるのも薄々わかっていたから
渉はなにも言いたくなかった。

「ちゃんとしてるよ!いつまでも子ども扱い
しないでくれよな!」

渉は何もしていなかったのに
美月に啖呵を切ったのだ。

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卓は苦笑いをした。
「あの時は親父も鬱陶しかったなあ。」
渉は我慢も愛情表現だと亮から説教されたのだ。
亮は説教したつもりではなかったが
反抗期も手伝って素直に話は聞けなかった。
亮は、自分は経験が遅いから的確なアドバイスは
出来ないが、もう少しお互いの身体が成熟
するまで待ったらどうかと説明した。
渉はいかにも亮が美月を大事にしていて
お預けを食っている間もうまくやっていたと
自慢されたようにとらえた。
要するに自分が責められたような気持ちに
なってしまったのだった。
これは一緒に聞いていた卓もそう思ったと
言うから、亮の話し方にも問題はあったの
かもしれなかった。
それでも、身体の関係抜きにしても男女の
愛情は成立するという、亮が一番伝えたかった
ことは年を経る毎に理解できるようになった。
そんな身体抜きの愛情を獲得してからの
溺れる程のセックスはもう堪らないものだからだ。

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しょせん中学生のガキの浅知恵、いくら
避妊をしっかりしているとかいっても
たまにコンドームを着けるくらいだ。
そして美瑛にしたってたかだか初潮から三年
月のリズムだって不安定だ。

美瑛はあっという間に生理がなくなる。

毎月決まった日の前後に来ていた生理が
来ない。美瑛は一人で悩みを抱えて
でも誰にも話せなくて、渉にも嫌われたく
ないがために言えなかったのだ。
不安で、恐ろしくて、渉との赤ちゃんを
産みたいとか産めないとかじゃなく
ただ、怖かった。
とうとう美瑛は保健室に相談にいく。
それでも、自分が事の当事者と明かすなんて
とてもできなかったから、友達が悩んでいる
けれど何かアドバイスが出来ないかと
話を切り出した。
保健室では相談を受ける曜日が決まっていて
養護教諭だけではなく、交代で色々なベテラン
教師が常駐した。
美瑛が行くと、担当教師は美月だった。


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美瑛は泣き崩れたいのを必死でこらえて
友だちの話として相談する。
美月も話を合わせたが、これは美瑛のことだと
いやというほどわかった。
美月はあと1週間様子を見るようにと
アドバイスを伝えるように言う。
話をしながら怒りが膨らみ
このままでは渉を殴りかねないと
自分の握りこぶしを膝の上で縛り付けるのを
イメージする。
言わんこっちゃない。
美月は散々頭の中で渉に悪態をついて
一度気持ちをクリアにしようと努めた。

そして、待つことにした。
美瑛もずっと渉に内緒にし続けるわけには
いかないのだ。そして渉はどう反応して
どう受け止めるのか。
そこを見届けよう。

それから1週間を美月は何事もなかった
ように過ごしたのだが。
気を紛らせるように夜もろくろく眠らずに
仕事をした美月だった。





******************

卓は高校に上がってからの自分達の
初体験を思い出していた。
クスッと笑うと、話を渉の方に戻した。
「で、あの時はいつ美瑛から聞いたの?」
渉は青天の霹靂とはあのことだよねと
前置きすると笑った。
「実はあれ、美瑛から聞いたんじゃないんだよ。」
「え?」
「附属第二の方から、保健体育の先生
たまに来てただろ?いきなりあの先生に
呼び出し食ったんだよ。」

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体育科の主任教師、隣のクラス担任の
小田先生に保健室まで呼ばれた。
「第二の蒲生先生、相談室に良く常駐してる
先生なんだが、お前に話を聞きたいと
言ってるんだ。放課後つき合ってやって
くんないかな。」
相談室絡みと言えば苛めの相談だろうかと
渉は思う。
自分は極力そういった関わりは持たぬよう
気を付けていたが、母親が担任というのは
少なからず複雑なものだと憂鬱な気持ちに
なる。特別視されるだけでも様々な面倒に
巻き込まれるのは経験済みなのだ。

保健室にいくと年の頃なら三十代前半
小柄ながら溌剌として背筋のまっすぐな
地味目の女性が座っている。
彼女は事情の説明もそこそこに
美瑛とのことを尋ねてきたのだ。


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「あなたが長内渉くんね。同じクラスの
緒形美瑛ちゃん、あなたの彼女で間違いない?」

「はい。でも、何で?」

「先日、ここの相談日誌をチェックしていたの
先週の火曜日の相談内容に気になる記述を
見つけてね。彼女と特別なお付き合いをしてる
あなたに、お話を聞きたかったのよ。」

美瑛が保健室に相談に来ていたなんて。
ちっとも知らなかった。
あいつは俺といて、いつも嬉しそうにしてくれる。
俺が触れるたび、喜んでくれる。
心配事があるようには見えなかった。

「彼女は、生理が遅れて妊娠を心配して
悩んでいるお友だちにアドバイスが出来ないか
相談しにきたと日誌には報告されているわ。」

渉は胸を撫で下ろした。

「じゃあ、特別美瑛に何か悩みがあるわけ
じゃないんですね。よかった。」

「多分、彼女自身のことよ。」

「?」

渉は鳩尾に鉛を流し込まれたような感覚に
襲われ、視界が少し狭まった気がした。

「あなたと美瑛ちゃん。セックスは?」

渉は黙っている。
なぜ、そんなことをぶっきらぼうに
尋ねられて答えなくてはいけない?
怒りさえこみ上げた。

「まあ、いいわ。ここ最近、彼女の様子に
変わりはないかしら?」

「そんなものないですよ。あいつ、元気ですし。」

渉がつっけんどんに答える。
蒲生先生の眼差しが鋭くなる。
沈黙が流れ、空気が静かに重さを増していった。




その静寂を破るようにノックの音が響いた。
「失礼します。その生徒の担任です。」
美月が保健室に入ってきた。
「なにか、トラブルですか。お話させて
いただいても?」
渉は最悪の展開になったと舌打ちをした。
「長内くん。態度が悪いわよ。」
蒲生先生はピシャリと渉を叱る。


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「あれ。美月先生?」
「って、村雨、さん?」
美月と蒲生先生はどうやら知り合いのようだ。
かなり久々の再会らしいが、場の空気が和む。
「ごめん。こいつ何かやらかした?」
美月は一番聞きたかったことを単刀直入に尋ねた。
「彼は、緒形美瑛ちゃんとお付き合いして
いるのよね?本来の相談者は彼女なんだけど。」
美月は黙ってしまった。
「美月先生?」
促されて美月は白状する。

「この相談うけたのはあたしだし、こいつは
あたしの実子だよ。これは引き取らせて。」

「え?」

蒲生先生は状況を飲み込むのに
時間がかかりそうだった。

「お袋は関係ないです。ていうか、どうして
美瑛を呼ばないんですか?俺は何にも知りません。」
そもそもこの話、当事者抜きで何故進めようと
しているのかが渉には不思議だった。
美瑛を呼んでくれ。あいつはこんなわけの
わかんない話はやいとこ終わらせて
俺が戻るのを教室で待ってるんだ。

「それはかわいそうだわ。」
蒲生先生が少し辛そうに下を向く。
「ここに呼んだら美瑛は被告人になっちゃうよ。」
美月も蒲生先生に同調した。

「美瑛にはあたしたちが別の席で話す。
あの子がいま、どんなに不安で怖いか
わかるかい?お前は、美瑛に何をして
あげられるか。考えてごらん。」

美瑛はいつもの生理より1週間遅れてる
っていってたんだ。たった1週間って思うかい?
まだ年齢的に不安定だしあと1週間様子を見る
ように言ったんだけど、あれからまだ美瑛は
不安に苛まれながら毎日過ごしてるんだよ。

「母さん。美瑛はどうして俺に言わない?
そんな不安で怖いなら、一番に俺を頼って
欲しいのに、どうして来てくれないんだ?」


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渉は歯痒くていてもたってもいられなかった。

「嫌われるかもしれないって思うんだよ。」
蒲生先生が泣きそうな顔で渉に訴えかける。
「面倒なことになったなって。疎まれて
嫌われるのが凄く怖い。そういうものなの。」
渉は絶句した。
確かに、妊娠していたとしたら
どんなにか怒られるだろう。
日頃から言われるのが一番嫌な
それ見たことか!という怒られ方をするのだ。
産むか堕胎かの選択を迫られるが、もちろん
産むのは現実的ではない。堕胎も最後まで選びたくない選択肢だけれど、結局はそうなるだろう。

「あんたにまで怒られたり嫌われたりしたら
美瑛はやりきれないよ。渉は、きちんと美瑛に
話が出来る?一緒に現実を見て考えられる?」
美月は渉から美瑛に話をするように約束させた。





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渉は大きくため息をつく。
「で、それから美瑛に話した。お父さんお母さんに
一緒に謝ろうなって。そうしたら美瑛は
泣き出して初めて俺を頼ってくれたな。」
21の渉は懐かしく当時を思い出す。