鶴屋開店休業回転ベッド

あたしの創作世界の基盤。だけどとてつもなくフレキシブルでヨレヨレにブレてる。キャラが勝手に動くんだ♪

浅海と渉

「マジでそんなガキ臭いこといってんだあ。」
「そりゃ自分で自分にそんなに自信はないよ。
卓は普通にしてるし、きっと俺の方が
おかしいんだと思うけど。」
「あんたは美瑛とおんなじことしてるって
いうのをママには全部飲み込ませてるじゃん。
それに関してはどう考えてんの?」
「ママじゃないよ!やめてよ茶化した言い方!」
「パパママ仲良しでいいじゃん。あんたは
いくらジタバタしたところでパパには勝てないよ。」
「わかってるよ!」
「んもう。ごきげん斜めだね。タルト焼いたの。
食べてく?」
「うん。」













あの蒲生先生がどうしても気になって
何度か保健室を訪ねた渉。
行くたびに彼女はだばだばと素の部分を
ぶちまけ始め、物言いが乱れ出す。
「建前ばっかり取り繕う大人が、絶対に
つき合っちゃ駄目!っていうタイプだ。」
渉は浅海が面白くて、離れられなくなった。
「あたし、小学校の頃はずっと同じあだ名で
呼ばれてたんさ。」
渉が興味津々で話の続きを待つ。
「山猿。高学年でマウンテンモンキーに昇格。」
渉はこれ以上笑ったら死ぬと言うほど笑った。

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「あのさ。渉?あたし、やっぱりもう
こっちの相談員入れなくなっちゃった。」
「え。それは俺たちの一件?」
「ん。まあ、そんだけじゃないけど。」
この人は他にも色々やらかしてるだろう。
「だからさ。あたしんち遊びに来て。
たまにでいいから。ケーキ焼いとくし。」



「ケーキでつられるとは思わなかった。」
「お袋は弁当茶色系女子だからさ。ケーキとか
全く作ってくれないし。」
「頼んだの?」
「頼むわけねえじゃん!」
浅海は嬉しそうにかいがいしく渉の世話をやく。
「げ!うめぇ!なんだよこれ!山猿が焼く
ケーキじゃねえよ!んま!」
「今一つ褒められている気がしないわ。」
「じゃあ何て言えばいいのさ。」
「黙って押し倒すの。」
「えと。あのさ。マジなの?」

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浅海は別れ際に毎回抱きつく。
そこで渉の耳にキスをしてくる。
大好きよ。
聞き慣れてきた言葉に妙になじむ唇の感触。
からかわれてるよな。
でも。

「女が押し倒してっていうの、マジ以外の
なんだと思うのよ。」
「はあ?あんた旦那いんだろが!」
「残念っ!今夜は出張で帰りません!」
「そういう意味じゃねえよ!」
「素敵。渉。」
急に浅海が切なげな瞳を潤ませて上目使いに
渉を見てしなを作る。
「あ。浅海。」
「んもうばかばか!あんまり隙を見せてると
おばさんが食べちゃうんだから!」
肝心なところでおちゃらけて逃げる。
渉はため息をついて色々と思い直す。

「参ったなあ。17歳も下の男の子
こんなに好きになるなんて。」

彼女が使う好きという言葉と
自分が美瑛に使う同じ言葉。
本当に同じなのかはわからない。

彼女は馬鹿みたいに心を開放する。
好き好きと口にするわりに
同時に禁断の行為に幾重にも鍵をかける。

可愛らしく素直に渉に体を擦り寄せるわりに
決して一線は越えては来ない。

でも、渉はもう、切なくてたまらない。

俺が抱いてやれば、この切羽詰まった気持ちは
融けていくのかな。
苦しくってたまらない。


「お前は、俺に抱かれれば少しは満足して
くれるのかよ。ケーキのお礼くらいにはなる?」

喉まで出かかって
やっぱり言えない。










「渉?お父さんお母さんや卓くんに言えないこと
美瑛にも言えないこと
あたしはそんなことを抱えたあんたを
やさしく受け止めたいなって思うのよ。
だから、あたし自身があんたの悩みになったら
もうおしまいなの。」
ある日、浅海が渉の耳元で囁く。
「あたしは、自分の想いは隠せない。
だって。渉があんまり素敵だから。
夜には一人で思い出して濡れたりもする。
渉は、自分に惚れてる女をちゃんと利用するの。
あったかい気持ちを都合よく抱くのよ。
辛いときの支えにして。男としての自信にするの。」

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あたしは、渉の二人目の女よ。
おたがいに一番の相手を思って
日々の諸々に悩みながら生きてる
生身の男と女。
あたしは美瑛を愛してる、渉を好きよ。
「浅海。」
「いやよう。名前で呼ばないで。濡れちゃう。」
「んもう。相変わらずだな。」





渉は浅海の耳にお返しのキスをする。

「俺はまだガキだからさ。気持ちをもらって
熱くなるなって言われたら困るんだ。
でも、お前のいうこともわかる。気がする。
遠慮なくお前には甘えるぜ?」

「あん!渉ったら!素敵よ。」











かといって浅海はなんでも許してくれる
わけではなかった。

「どうしたの?渉。」
渉は無言で浅海を抱きしめ、きゅっと上がった
小さめのヒップをわしづかみにした。
ちょっとしたことで気持ちがすさみ
ムシャクシャしていたのだが
浅海の甘い言葉を聞いていれば
気分も晴れるかと思ったのだ。
「バカにすんじゃないよ!」
浅海は渉の胸ぐらを掴み足を払って
投げ飛ばした。
「どうせくだらないことでムシャクシャして
憂さ晴らし程度に触りに来たんだろ!」
この女は小学校時代には山猿と呼ばれて
中学では自分の母親が舌を巻く程のお転婆
大学では空手と柔道に明け暮れて
体育教師となった今でも、筋の通らないこと
には誰相手にも食って掛かる男前な女だった。
「話してごらんな。話すほどのことならね。」
「ち、違うよ。お前に聞いてもらう程の
ことじゃない。」
浅海は渉を引っ張り起こすと
珍しく渉の耳を甘噛みした。
「うはあ。」
「あたしが濡れちゃうくらいに好きなのは
そんな渉じゃないからね。わかったかい。」


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あれから7年。
「渉はまだそんなガキみたいなこと言ってんの?」
たまに、デートする。
浅海の車でドライブに出掛けると
「ね。休憩していかない?」
なんて車を勝手にラブホに入れられるが
部屋に入ってからは枕を並べて昼寝をしたり
テレビをみたりして過ごす。


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本当に、休憩するだけだ。