鶴屋開店休業回転ベッド

あたしの創作世界の基盤。だけどとてつもなくフレキシブルでヨレヨレにブレてる。キャラが勝手に動くんだ♪

天使が舞い降りた2

思った以上に体調が悪い。
浅海は依然として食欲が落ちていて
胸焼けが酷くなった。
渉には心配かけたくなかったのだが
毎晩のように訪ねてきてくれる。
つい甘える。
一緒にいるとすこし食欲がわくのだ。
食事の支度をする気も出る。

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台所で二人で料理をする。
渉は、家ではちっとも美月の手伝いなど
しないと笑う。
浅海と一緒に居たいからだ。
そう笑う。
浅海は具合の悪さも忘れる。
渉を想う。
甘くて苦しくて痛いくらいに、好きだ。

「明日から、本校に出張なんだ。」
「あ、あの午後から行くってやつ?忙しい
じゃん。昼食う時間あんのか?」
「ん。どうせ食欲ないから、カロリーメイト
何かかじれれば平気だわ。」
「頑張りすぎるなよ。」
「ありがとう。渉。」



浅海は四時間目が終わって慌てて準備を
始めた。分刻みのスケジュールだ。
「村雨先生、交通費はあとで事務室に伝票
出しといてくださいね。」
「はい、わかりました。行ってきます。
直帰しますので宜しく!」
バタバタと私鉄の駅まで走る。
電車で三つ先の駅からまた本校まで徒歩10分
都合30分ほどかかるのだ。
昼休みは45分。着替えてグラウンドに出て
いくら急いでも予鈴には間に合わないだろう。
やっぱり実家からでも車を借りようか
浅海は頭を抱えた。

「村雨さん!」
職員玄関で靴を履き替えていると美月に声を
かけられた。浅海は複雑な気持ちをなるべく
圧し殺すようにして笑顔をみせる。
「美月先生!ご無沙汰してます!」
「今、来たの?で、五時間目?」
「ええ。四時間目まできっちり授業が
入ってるんですよね。」
「お昼食べてないんじゃないの?」
「電車の中でカロリーメイトを一本」
「大丈夫なの?」
「最近食欲ないから、ちょうどいいんです。」
浅海は更衣室に急いだ。
あと10分で予鈴が鳴る。





六時間目までを終えた後、
報告書を書いて主任に提出した。
これで今日の仕事は終了である。
思った以上にキツかった。
更衣室に向かって廊下を歩いていると
急に吐き気がして立ち止まる。
胸焼けは続いていたがこんなに
気持ち悪くなることはなかった。
前屈みに座り込んでしまった。
冷たい廊下の床にどんどん体温を奪われる
感じで震えがくるのだが、動けない。


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「?どうかしましたか?」
聞き覚えのある声が上から降ってきた。
「し、賞平、くん。」
「浅海!どうしたお前!しっかりしろよ。」
賞平は浅海を抱き上げて保健室へと急いだ。

「中学の瀬田先生のヘルプを第二から呼ぶ
ってのは聞いてたけど。お前だったんだ。」
「ありがと。助かったわ。」
養護の野田先生が賞平の肩を叩く。
「ちょっと話聞くから。坂元先生は外して
くれないかな。」
「はい、わかりました。」
野田先生は賞平が出ていくのを確認すると
口を開いた。

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「村雨先生。生理、来てます?」
「最近プライベートで色々あって。だいぶ
遅れ気味なんです。」
「微熱が続いてるんですよね。」
「!まさか。」
「妊娠しているんじゃないかなあ。最後の生理
いつでした?」
「先月の、頭くらいでした。」
「周期の乱れる前は何日くらいで来てました?」
「28から30日で。」
「もう、判定薬で出ると思いますよ。掛かり付け
産婦人科があれば受診されてもいいかと。」
「あ、ありがとうございます。」
「お大事に。もうすこし横になって行きます?」
「いえ。帰って判定薬やってみます。
もし本当に妊娠ならお医者様にも行かないと。」
浅海はゆっくりとベッドから立ち上がる。

保健室を出たところで美月と会う。
「村雨さん!倒れたって?やっぱり無理
してたんじゃないの?」
「ちょっと今日は初日だったし。坂元先生にも
迷惑かけちゃったけど。もう大丈夫です。」
「あのさ。余計なお節介かもしれないけど。」
「なんですか?」
「あたし車で第二まで迎えに行ってあげるよ。
片道10分で行けるけど?」
「え?15分掛かりませんか?」
「ショートカット出来るよ。」
「でも、美月先生のお昼休みが」
「あたし、五時間目空いてる日多いんだ。
体育は着替えたり移動の時間もあるだろ。
遠慮しないで甘えてよ。」

ありがたく甘えることにした。
これで本当に妊娠なら、美月先生と決まった
時間に会えるのも心強い。
それにしても。あれだけ雅也とセックスに
溺れるほどの生活をしていた新婚時代にも
まったく妊娠する気配もなかったのに。
一応避妊はしていた渉とのセックスで
妊娠しているものだろうか。
期待しすぎるとがっかりするので
あまり考えないようにしながら
ドラッグストアで判定薬を買い求める。
部屋に帰ってきて包みを開けた。
何しろこんなものを手に取ることからして
生まれてはじめてなのだ。
浅海は幾分緊張しながらお手洗いへと急ぐ。







陽性だった。




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渉との赤ちゃんだ。
自分はとっくに高齢出産なのでリスクは高い。
だが、絶対に無事に産んで見せる。
浅海は静かに燃える決意を固めていた。