鶴屋開店休業回転ベッド

あたしの創作世界の基盤。だけどとてつもなくフレキシブルでヨレヨレにブレてる。キャラが勝手に動くんだ♪

天使が舞い降りた3

妊娠2ヶ月だ。
エコーの写真を見ると、ちょろんとまるっこい
ものが写っていて、我が子ながらイモムシの
ようでかわいいなあと思う。

渉は何て言うだろう。
彼はまだ大学生だ。
すぐに結婚するわけにもいかない。


と、いうより。
浅海は自分自身がすぐに結婚できないことに
今更ながら思い当たった。
前夫と婚姻を解消したのが3ヶ月前。
女である自分は、半年間再婚することが
できないのだ。
あと、3ヶ月。
生まれる前には入籍出来るが
本当に渉が自分との子を喜んでくれて
自分と結婚してくれるかはわからない。
浅海はそれでもいいと開き直る。

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これはあたしの赤ちゃんだもの。
あたしが産んであたしが育てる。
で、あなたのパパは訳あって一緒にいる
ことはできないけど、とってもやさしくて
素敵な人なんだよって教えるの。
それでも、いいよね。


美月が車で迎えに来てくれるので
ずいぶんと体も楽になった。
浅海は相変わらず食欲がなくて
車の中ではシートに体を埋めるように
くったりとして過ごしている。
美月は運転が上手かった。乗っていて
体に負担がかからないのが有り難かった。
ショートカットの名にふさわしい近道は、
さすが地元民という感じの
よくわからない斜めに走った細い路地だった。
こんな道があったのかと感心させられる。

「渉が心配してるんだ。」
美月は前を向いたまま、バックミラーで
ちらりと浅海を伺った。
「倒れたこととか、話したらさ。最近体調が
良くなかったから心配だったって。」
浅海は大丈夫と押し切ろうとした。
「微熱が、続いてるって?」
渉から聞いたのだろう。浅海は頷く。
「失礼なこと訊くようだけど。村雨さん
生理ちゃんと来てる?」
美月の口調が強めにシフトしたように思えた。
なぜか、浅海は美月に妊娠を咎められ
産むことに反対されるのではないかと
恐怖に怯えた。
「いやです!あたし、一人でも産みます!!」




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車内の空気が止まった。
ほんの1分か2分のことだろう。
浅海には意識が遠のくほどに長く感じた。
もう車は本校の駐車場への路地を入っていた。
美月は相変わらずの安全運転で
滑るように車を入れた。
バックで駐車するハンドル捌きも
惚れぼれするくらい格好良かった。
さきに沈黙を破ったのは美月である。
「おまたせ。」
「あ。ありがとうございます。」
美月は先に降りてドアをあけてやる。
浅海の手を取った。
「渉には言ったの?」
「え。」
「あいつ、まだ知らないんでしょ。」
「はい。まだ。」
「じゃ、聞かなかったことにするから。
まず始めにあいつに教えてやって。」
多分あたしが先に聞いたなんて知ったら
渉は拗ねるからさ。美月は笑った。
「嬉しいよ。あたしもお祖母ちゃんなんだね。」
「そうですよ。可愛い孫産みますから!」
「よろしくね!」
浅海は我慢しきれずにグズグズに泣き出した。


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「渉。今夜来られる?」
メールを打つとすぐに返信が届いた。
「バイトあるから9時頃になるけど。夜は
ずっと一緒にいられるよ。」
「うれしい。待ってるから。」
浅海はやっぱり、渉がなんていうか
心配だった。
だけど渉との子どもがお腹にいるのは
素直に嬉しいことだった。

渉が浅海の部屋に来たのは9時を10分ほど
回った頃だった。
「晩御飯は?」
「もう腹ペコペコだよ。」
「あれこれお買い物出来なくて。オムライス
でいいかな。」
「ありがと。」
ケチャップでハートでも書こうかと思ったが
やめておいた。
サラダとスープを添える。
浅海は男がご飯を食べるところにときめく
タイプなのだと自分を分析している。
口いっぱいにご飯をほうばる姿を見ていると
切ないほどに気持ちが高まる。
渉が中学生の頃、ケーキで釣って手なずけた。
美味しそうに自分の焼いたケーキを平らげる
渉に惚れ惚れしたものだ。
渉はオムライスを食べ終えると
器を流しに下げて洗い物まで全て片付けてくれた。
「浅海。いつもありがとな。
オムライス旨かったよ。」
キスすると渉の唇はケチャップの味がした。
「口の回り、ケチャップついてるわ。」
浅海が舐めとるようにキスすると
どんどん激しくなってくる。
「あん。もう、降参。」
浅海が感じはじめて離れると、渉が寂しそうに
浅海を抱き締めた。
「だめ?具合悪いか?」
「あのね。渉?あたし。」
やはり躊躇われる。どんな顔するだろう。
「あ、あたし。妊娠したの。」
「え。」

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渉はたまげた顔をしている。
驚いたとかじゃなく、たまげた。
「渉とあたしのあかちゃんよ。」
「俺が、親父?」
「渉はまだ大学生だから、無理に籍を入れて
ほしいとは言わないし、あたしと結婚する気
なんかないならそれでもいいの。」
「は?何いってんだよ!俺はどのみち
就職きめたらお前にプロポーズするつもりで
いたんだからな!嬉しいに決まってんだろ!」
「渉ぅ。本当に?」
「俺の子ども、産んでくれ。ずっと一緒に
いて欲しいんだ。」
「こんな、年上のおばちゃんなのに。」
「愛してるよ。お前じゃなきゃ駄目なんだ。」
浅海は渉の胸に顔を埋めて泣いた。
嬉しいのに号泣してしまう浅海。
俺が一生守ってやらないと。
渉は決意を新たにした。


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