鶴屋開店休業回転ベッド

あたしの創作世界の基盤。だけどとてつもなくフレキシブルでヨレヨレにブレてる。キャラが勝手に動くんだ♪

セカンドラブ

「お姉さんセクシーだねえ。」
「俺らとカラオケでも行かない?」
美瑛はひとりで街を歩く度に
男から声をかけられる。
髪を金色に染めたチャラい奴が
決まって二~三人で取り囲み
しつこく絡んでくる。
ここで母の瑛子ならば
チャッチャと蹴り倒して先を急ぐのだろう。
瑛子は前世紀の遺物、スケバンという
よくわからないがとても強くて格好いい
お姉さんだったらしい。
でも美瑛は運動音痴で性格も内向的
自分でも情けないほどに弱い女だと思う。
幼馴染みの鈴は男の子相手でも平気で言い負かす
強気なメンタルと弁の立つ頭の回転の早さで
いつだって堂々としている。
羨ましかった。

自分はいつも渉と一緒にいて
助けてもらってばかりだった。
ひとりになるとそれをつくづく思い知らされる。
その自信のなさが表に出てしまうのだろうか
渉と別れてからは特に絡まれやすくなった
気がする。

それにしても今日のやつらはしつこい。

「もう、時間も遅いし帰らないと」
「いいじゃない!俺らが一晩中つき合って
あげるからさあ!」
「もう、通してください。」
「可愛いなあ~」
「もういい加減にやめてやれよ」
ヘラヘラしたナンパ野郎共とは明らかに違う
すこし太めの低い声がした。
スーツ姿のサラリーマンだ。
三十代後半の大柄でいかにも体育会系な
がっしりした体つきだった。
「なんだオラア!カッコつけてんじゃねぇぞ!」
ナンパ野郎共も腰が引けているが
相手は一人だと強気に出ることにしたらしい。
「男の子同士で遊んどいで。」
サラリーマンは顔色一つ変えずに
美瑛の正面で道を塞いでいた男の襟を締め上げ
る。

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「かっ…ふごぅ…」
プラプラとぶら下がる足が痙攣を始めた。
「やめろォ!死んじまうよ!」
「うああああー!!」
「大丈夫だよ。死にゃしねえって。」
大袈裟だなあと舌打ちをしながら
渋々襟を離す。
「ミッチー!しっかりしろよぉ!」
「畜生!覚えてやがれ!」
今までのヘラヘラした顔からは
思いもつかない怯えた顔つきで
ナンパ野郎共は転げるように走り去った。

「大丈夫?」
「あ、ありがとうございました。」
「お家どっち?」
「あ、えと。」
「車だから。送ってやるよ。」
美瑛はこんなに年上の男性には自分なんか
ほんの小娘に見えているに違いないと思った。
なぜか自分が女として見られている気が
全くしなかったのだ。

「はじめて。」
男は車を走らせ、後部座席に乗り込んだ
美瑛に向かって静かに話しかけた。
「何がですか?」
美瑛はコインパーキングまで
男と並んで歩くうち、この男が塞ぎこんで
いるのがわかった。もともとこういう人
なのかとも思ったが、寂しそうな横顔を見ると
心がざわついた。
「送ってやるっていって、車にまで乗った子。」
「そう、ですか。」
「どうする?このまま、ラブホテルとか
入っちゃったら。」
「そんなつもり、あるんですか?」
美瑛にはなんだか確信めいたものがあった。
この男には自分を抱こうなんて気持ちはない。
「ないよ。」
「やっぱり。」
思った通り、男は淡々と車を走らせる。
「何か、あったんですか?」
美瑛は思いきって話しかけた。
「最近なんか辛いことでもあったんですか?」
男は運転しながら静かに笑い始めた。
「なんで、わかるのさ。」
「なんだか塞ぎこんで、寂しそうだから。」
「初対面なのにかい?」
「そう、ですよね。」

「もう、ここでいいです。助かりました。」
美瑛は近所の公園の前で車を降りた。
「あんな風に助けてもらって、家まで送って
もらって、なんてお礼を言えばいいか。」
男は自分も車から降りると美瑛の正面に立った。
「じゃあ、お礼にハグしてもらっていい?」
男は美瑛の返事などはなから聞くつもりは
なかったようで、美瑛の体を包むように抱きしめ
頬と頬を合わせて感触を楽しんだ。

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「君も、なんかあったろ。」
「え?」
「最近、なんか辛いこと。」
美瑛は、渉を失った寂しさを他の男の温もりで
埋めようなどとはとても思えなかった。
逆に同年代の男子には警戒心が先行して
男嫌いになりそうな位だった。
でも、この男とのやり取りは違う形で心に
響いた。体は気持ちよくて、暖かかった。
「君とはもっと、話がしたいな。」
男は美瑛に自分の名刺を差し出した。
裏にケータイのナンバーとメールのアドレスが
書かれている。
「最近、第二の人生のスタートを切ったばかり
でね。ケータイから何から変えたんだ。友達に
配って回ってたんだ。ちょうどよかった。」
よかったら連絡ちょうだい。
男は帰っていった。



「空振りかと思ってた。それに俺なんかじゃ
年が釣り合わねぇもんな。」
あれから美瑛はとても迷った。
いつの間にか一ヶ月も放置したままになって
いたのだが、メールしようと決心して文面を
いじくり回しているうちにまた二週間が経った。

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「連絡遅くなっちゃって、ごめんなさい。」
「いいよ。また、会えたから嬉しい。」
美瑛はこの男を嫌いではない。
あの日、車でラブホテルに連れ込まれたと
しても、それはそれでいいかと思う。
でも、心の整理がついていないまま
次の恋をしたくなかったし、恋なんて呼べる
ものになるのか自信がなかった。
「君は、なにがあったの。」
「え?」
「相変わらず、笑顔がぎこちない。」
「そんな。私いつもこんな風ですよ。」
「そうかなあ。もっと可愛らしく笑うんじゃ
ないかなあ。」
嬉しそうに美瑛を覗きこんで笑う。
自分に笑いかけてくれるのが美瑛も嬉しくて
自然に口元がほころんだ。
「そうそう!可愛いぜ。」

男は美瑛より17歳も年上だったが
話は弾んだ。
「俺も久田だよ。中高と行ってた。」
「ほんとですか?」
「よく体育倉庫でセックスして先生に怒られた。」
「………!」
「しなかった?」
「そんな。」
「その顔は、してたろ?うふふ。」
「そんなこと!」
真っ赤で否定し続ける美瑛が可愛くて
すこし意地悪をした。
「どんな体位でしてた?」
「いやぁん。」
「くそ。なんだよ、可愛いなもう!」
「恥ずかしい。もうよして。」
美瑛は渉のことを思い出して胸がちくちく
痛んだが、それを上回る恥ずかしさと
言葉で弄ばれている感覚が麻酔のように
じんわりと痛みをやわらげていた。
「そんな風に恥じらう可愛い女とは
ついぞ縁がなかったんだ。からかってごめん。」
「もう。ひどいわ。」

ランチをして、映画を観て、お茶をして。
日が暮れるまで一緒にいた。
「俺、女房と別れたばっかりなんだ。」
男は黄昏る窓の外を見ながらポツリポツリと
話し始めた。
「学校でセックスしてた、ずっと一緒だった
女だ。大学出てすぐ結婚して。浴びるほど
セックスしてたってのに子どもが出来なかった。」
美瑛は彼の寂しさが胸に染みて、痛んだ。
「俺は仕事で月の半分くらい家を空けることも
珍しくない。女房には何度も仕事をやめて
一緒に来てほしいっていったけど駄目だった。」
美瑛は思う。もし、渉にそんなに望まれたら
何を置いてもついていっただろう。
「どうにもならなかった。愛してたのに
何一つ上手く行かなかったな。」
美瑛はかといって彼の元奥さんを悪く言う
訳にも行かないと黙っていた。
「ごめん。つまんない話しちゃって。」
「いいんです。私は聞いてるだけしか出来なくて
何もしてあげられないから。こっちこそ
ごめんなさい。」
「美瑛。」
突然名前で呼ばれて、美瑛は体に電気が走る。
「君に、慰めて欲しいんだ。」
きっとこう言われるのがわかっていた。
いつ、こう言ってくれるかと待っていた。
「どうすれば、いいですか。」
わかっていて美瑛は訊ねる。
はっきりと言葉にしてほしかった。
「からだと、からだで。」
美瑛は自分の乳首が下着の中で固く立ち上がり
下半身が甘く疼いて蜜がとろりと滲み出たのを
感じた。こんなことは今までなかった。
「おいで。」
ふたりはカフェを出た。