鶴屋開店休業回転ベッド

あたしの創作世界の基盤。だけどとてつもなくフレキシブルでヨレヨレにブレてる。キャラが勝手に動くんだ♪

笑っちゃう

「クッション買ってもいい?」

珍しく甘えた声でおねだりする美瑛に
雅也はウインクしながら頷いた。

「でもクッションなんか使ってる暇あんのか
俺はお前を即押し倒すぜ。」

ニヤニヤという表現がぴったりの雅也。

「んん。クッションがあった方が便利な体位
だってあるんじゃない?」

美瑛は雅也の二の腕に乳房を深く浅く
押し付けながら微笑んだ。










確かに、オトコに追いかけられるのは
とても新鮮だった。
セックスを始めるとき、自分から誘わなくても
求めてもらえるなんて。
美瑛は雅也の眼に疑いを持たなくなってからは
本当に安心して待っていられた。
しかも待つ間もなく、いつだって奪うように
抱いてくれたし、焦らしてくれた。
焦らすのだっていつも自分から降参するような
短気爆発その分激しく感じさせてくれる。




「こんど実家出るから。」

雅也がそんなことを言い出したのは先週の
ことだった。
雅也は離婚してそろそろ一年になるようだが
別れてすぐ実家にもどっている。
久田学園のすぐ近所で白い塀の高く続く
大きな家が雅也の実家だ。
当時から同居しようと思えば出来たが
月の半分を札幌から大阪まで飛び回る雅也は
妻を気遣い別居することにした。

「美瑛と、もっとふたりっきりで
いられるようにな。」

雅也というオトコはこんなことを
すっぱりと口にして
耳にキスしたりするやつなのだ。

「俺は帰ってこられる限り、部屋に帰る。
お前に逢いたいからだ。」
「あん。雅也さぁん。」
「お前は実家暮らしだ。無理にとは言わんよ。
俺がこっちにいるときは、一緒に居てくれ。」

美瑛は大学にも雅也の部屋から行こうと
思った。それは何ら問題のないことと
考えていたのだが。


デートでは始めに家具を選びに行くのが
恒例となり、美瑛は自分のものを買いそろえる
ようになっていたのだった。
大きなカートを押して広い店内を回る。

「マグカップ見てくるね。待ってて。」
美瑛は本当に楽しそうに
花畑のモンシロチョウのように
商品棚をフワフワ舞っている。





「美、瑛。」

ボーンチャイナのシンプルな
カップ&ソーサーを見ていた美瑛の
すぐ横に、懐かしい気配があった。

「渉。」

美瑛の楽しげな表情がみるみるうちに
収まっていく。
渉はガッカリしながらも
これは当然のことなのだと思い直す。

「買い物?」

渉はこんな必要のない会話を
こんなに気詰まりに美瑛に仕掛ける日が
くるとは夢にも思っていなかった。

「うん。渉も?珍しいわね。」

美瑛は家のことには無頓着な実家暮らしの
渉が何故カトラリーコーナーで
ステーキナイフなんか見ているのかが
不思議だった。

「渉!こんなところにいたの?」

通路を挟んだ向こう側からカートを押した
妊婦が渉に近づいてきた。

しあわせオーラが半端ない。
美瑛はすこし慌てた。
渉の表情が見たこともないものに変わった。
物心ついたころから一緒にいて
自分にはむけられたことのなかった
やさしくて、高揚感のある、なんとも言えない
慈愛あふれる顔になったのだった。

「あ。女房。」

にょ?

美瑛の頭は再度混乱した。







「美瑛!いつまでカップ見てんだよ。」

そこへがらがらと荒っぽい音をたて
雅也がカートを押して現れた。

「浅海!また腹でかくなったなあ!
順調そうじゃねぇかあ!」

雅也はそうがなりながら
美瑛の腰を抱いて斜め後ろに
匿うように引っ張りこんだ。

雅也はすべてを知っていた。

美月と話をしたときに
自分の新しい彼女が、
別れた女房の腹の赤ん坊の父親
元カノで。

まさかこんな四人顔突き合わせる羽目に
なるなんて思わなかったが。

「雅也。あの鼻の下伸ばして話してくれた
新しい彼女さんね?」

浅海は美瑛と直接話をしたことはないが
高校の卒業式の日に
見かけたことがあった。
渉と一緒にいた。
その時、浅海は密かに勝ったと思った。
美瑛はオンナとして申し分のない
綺麗な色っぽい娘である。
そこは敵うべくもなかったが
渉が向けてくる表情が、自分の方に
分があると思った。
醜い感情だが、浅海は嬉しいと思ったのだ。

いま、あらためて本人を目の前にすると
やっぱり客観的にいいオンナなのは
美瑛の方だ。浅海は思う。

とたんに怖くなる。
渉は、美瑛の美しさにあらためて気づいて
残念に思ったりはしないか。
こんな体型も崩れ動きも鈍くなった自分に
幻滅したりしないか。

面白いと思ったのは
雅也に対する感想がひとつも
頭を過らなかったのだ。

四人はすぐに別れた。










「今のオトコの人。親戚?」

渉は自分も挨拶したほうがよかったかなと
カートを押しながら話しかけた。

「元旦那」

「え?」

「不思議な縁ね。」





美瑛は少し苦しかった。

あんな年上の女性と
見たこともない表情を見せて
照れる渉。
あの口から「女房」なんて言葉が
出るなんて。
ていうか、もう、孕ませて結婚したの?
渉はまだ大学に行ってるはずだ。
学生結婚?

えーーー………………。

めちゃくちゃ!
あんなやつだっけ?
それにあんなオバチャンが
相手だったの?
あたし、あのオバチャンと
両天秤かけられて
負けたんだ?
エゲツナッ!!
ひどい、ひどいよ!















そうね。美瑛。
別れてよかったの。
できるなら、あたしから
手放せたらよかった。
うすうす気づいてたのに。
バカだったなあ。
ほんと、美瑛はバカ。




「そういえば。」

ん?渉のことを考えてグルグルしてたら
肝心なことを忘れそうだったのに気づいた。



「雅也さん?あのオバ…いえ女性と
知り合いなの?」

妊娠していることも
知っていた口ぶり。
つい最近にも会っているくらいの間柄。

「あ、ん。同級生。」

顔に書いてある。
嘘のつけない男だ。
普段の無邪気な言動を見ていればわかる。
隠し事なんかできない。

「元の奥さまね?」

「い、いや、うん。そう。」

「雅也さんはよくあんなに
平気にお話しできたわね。
大人だから?」

美瑛は自分が少し意地悪な物言いを
していることは承知していた。

自分の奥さんがもう他の男と結婚して
お腹も大きくて幸せそうにしてる
それを見てつらくないのかしら。

「どうしたんだよ。美瑛。」

雅也はまっすぐに美瑛を見詰めた。
やさしく口元が微笑む。


「あんなオバチャンとあいつが
あんなに幸せそうにしてて
やっぱりショックか。」

雅也の顔はとてもやさしく、でもどこか
悲しげで美瑛は胸を締め付けられた。

「ち、ちがうわ!確かにびっくりしたけど。
あんな大きなお腹で。」

「俺とは。できなかったんだ。」

雅也は中学生からずっとつき合って結婚した
あの女性とは子どもを残せていない。

「渉は、だいぶ前から私よりあのひとの方が
好きだったみたい。私に隠れて何度も
逢いに行ってたのよ。」

美瑛はそれを感じていながら
渉を手離せなかった。
渉から言ってくれたら諦めよう
そう思っていた。
でもいざ振られてみれば
醜い感情に支配されて
渉を責めながらも渉を忘れられなかった。

雅也と出会い、愛されて、もうとっくに
忘れたと、傷は癒えたと思っていたのに。

「俺は、全然わかんなかったんだ。
自分の女房の次の恋なんて、欠片も
見えなかったよ。」

離婚のきっかけも生活のリズムの合わない
いわゆるすれ違いと、子どもが出来なかった
ことだったから。

「美瑛。俺もすごくショックだったよ。
お前と男と女になった頃に偶然知ったんだ。
あいつの新しい男がお前の元カレだって。」

「雅也さんは。裏切られて悲しくないの?」

「悲しいけど、しかたない。」

「私、そんな風に思えない。」

「美瑛。落ち着けよ。」

「私と別れてすぐだわ。あっという間に
妊娠させて結婚までして。渉はまだ大学生よ!
あんなだらしない人だったなんて!」

「美瑛。じゃあ、お前も妊娠するか?
俺がお前を孕ませて嫁にもらって
これでもかってくらい幸せにしてやるよ!」















「やっぱり俺、子種ねえのかなあ。」

あの日から毎晩、さんざん中出しをして
おかしくなるくらいセックスした。
深く入る体位で何度もした。
美瑛は夜遅くに部屋に戻ると、雅也の精液が
流れ出てきて、たまらない気持ちになった。
膣にそっと指を挿し入れてみる。
愛液に混じって白い澱みが指に光った。
美瑛は夢の中でさえも雅也に抱かれていた。