聖母との再会
歩は比較的ウキウキしながら
母校の門をくぐる。
「知波も連れていくの?」
テーブルにサラダをサーブしに来た
朱美が歩に体をすり寄せた。
歩はさりげなく手を回し、朱美のヒップを
撫でてやる。にっこりとご機嫌な朱美。
「軽い挨拶だから。多分担任は美月だろ。」
「まだ受かってもいないのに。」
「大丈夫だろう。」
「美月先生にチョッカイするのやめなよ。」
歩は思う。
さすがは朱美だ。わかってるな、と。
「美月ももう48だぜ?あの頃の両性具有的な
色気だってもうないだろ。」
「ならいいけれど。」
鋭い女のカンに、久しぶりに肝を冷やした。
なんだ。こいつ。
今までと違う体の丸み、匂い立つ色気。
そりゃあ、他の女に比べればアッサリした女だ。
色気を嗅ぎとるのも、体の丸みにときめくのも
歩だからなのかもしれない。
これは紛れもなく美月がオトコを求める
シグナルなのだから。
分かりきったことだが美月の求めるのは旦那だ。
それはわかってるし、そこまで喧嘩を売るつもり
なんかない。負け戦ほど馬鹿馬鹿しいことはない。
隙を狙ってこちょこちょして気を許したところに
一気に畳み掛ける、こんなもんだろうか。
「ごめんな、歩。これ一枚だけやっちゃうな。」
美月は何か書類を作っている。
歩に背中を向けて、時折考え込みながら
手を止める。慎重に記入していく。
今年、三年生の担任をしているというから
色々忙しいのだろう。
肩に丸みが増して、後ろ姿が逆に華奢に見える。
歩は美月が手を止めた隙に後ろから襲う。
美月の顎をもって半回転させ、唇に唇を寄せる。
あんまりに久しぶりで美月も油断したんだろう。
すんなり唇は自分の唇にふれた。
だがそれ以上はさせてもらえなかった。
「もう、変わらないね。いきなりキスしようと
したりして。触っちゃったじゃん!」
美月はあまり嫌そうでもなく、そもそも
特別気にも止めない些細なコトとして話をする。
歩は釈然としない思いもあったものの
そこから斬り込もうと考える。
何でもないなら、もっとしようよ。
俺と、感じればいいじゃん。
「結婚式振りかな。13年振りか。」
美月はあっさりと話題を変えた。
「美月、おっぱいでかくなったじゃん。」
歩は食らいつく。
「太ったの!もう年だしね。ブヨブヨだよ。」
「いい女じゃん。あの頃は俺もガキだったし
美月をママン扱いできたけどさ。やっぱり
セックスしたいなあ。ね、やろうよ。」
歩が後ろからなおも美月を抱きしめると
昔は絶対感じたりしなかった美月が左側の腰を
捻るようにしてビクンと感じた。
「バカ!何感じてんだよ!さてはお前
欲求不満だろ!セックスしてやるよ?
なんなら五発くらいまとめてイかしてやるぜ。」
「間に合ってるったらあ。やん!」
美月がかわいく拒む。
何なんだよ!隙だらけじゃねえか。
だが、同時におかしいとも思う歩。
隙を、見せすぎる。
案の定美月は歩の肩越しに、ドアの方を見遣る。
「土曜日だし、さ。旦那、来てるんだ。」
歩が振り返ると、顔中怒りのマークで
目を血走らせた亮が小刻みに震えながら
立っていた。
「久しぶりだね。」
さすがに大人だし亮は努めて歩に普通に接する。
「奥さまがあんまり色っぽくなっていたので
恩師であることも忘れて、つい。」
歩は下手に出ながら挑発する。
「お褒めの言葉、夫婦共々ありがたく賜るが
君には関係ないことだ。違う?」
簡単に挑発に乗る48歳。
「さっき唇まではいただきましたよ。」
「何だと?!」
亮はいとも簡単に怒らされて
歩の胸ぐらを掴む。
「亮!やめて!」
美月が慌てて止めに入る。
歩は美月ににっこりと楽しげな笑顔を向ける。
「お客にこんな狼藉働かれちゃかなわないな。
もっと保護者は大事にしないと。」
歩の冗談には慣れっこな美月は
笑ってやり過ごしたが
亮は眉をひそめた。
「美月は客商売をしてるわけじゃねえ。」
「だって、私立はサービスを金で買うんだよ?
金払う側は立派な客じゃないか。」
「だとしたら、美月の客は子どもだな。親じゃねえ。」
「金払うかどうか決めるのは親だよ?」
「もし今の経緯でてめぇが買う気を無くすなら
勝手にしたらいい。」
美月は亮に歩み寄り、頬を両の手のひらで包む。
自分に向けると唇にキスをした。
かなり濃厚なキスでなかなか離れない。
最後には亮が降参するように、美月のからだを
自分から離して終わらせた。
亮は真っ赤でそっぽを向いてる。
「歩?思ってもないこといってからかうな。
知波は元気?あの子もうちに来たがってる?」
歩はショボくれた顔でうなづく。
「今度は朱美と三人でおいでね。んふふ。」
「わかった。美月、旦那さんとラブラブなんだな。
そういうわけか。いつもお代わりするんだな?
この淫乱女が~♪」
「あんたにとっては最上級の褒め言葉だよね。
でも普段は使わない方がいいぞ。」
歩は楽しかったのだが、これ以上俺達流で
戯れていると旦那さんの血管が切れるなと
撤収を決めた。
理科準備室を出ると久しぶりに胸が高鳴ってた。
いい女と、その女が愛する男と。
普段は分別もわきまえているであろう
壮年の男性が愛するがゆえ簡単に挑発に乗る。
もう、くすぐったいよな。
キスだってなかなかエッチなやつをして。
若くて不安定だった自分を暖かく包み
守ってくれた女の幸せそうな様子をみた
自分までもときめいているこの感じ。
なかなか味わうことが出来るものじゃない。
早く帰って朱美を犯そう。
無邪気な笑みがもれた。