鶴屋開店休業回転ベッド

あたしの創作世界の基盤。だけどとてつもなくフレキシブルでヨレヨレにブレてる。キャラが勝手に動くんだ♪

加奈子姉さん

女って狂うと怖いね。
殴り倒すわけにはいかないし
言い負かすなんて不可能。
だって、人の話なんか聞かないんだから。

あの赤井瑞穂の一件では
あんなに話が大きくなるとは
思ってなかったから
あの時にあっさり手を引いたのは
早計だった。
赤井は真利村が自分から阿部を盗った
なんていっていたらしいけど
あたしが阿部を見ている限り
赤井を見ていたことはなかっただろうし
それは誰に聞いても同じ意見だったはずだ。
もう少し事情通が掘り下げれば
赤井が自分のアクセサリーとして
つれ歩くのに見てくれの整った阿部を選び、
つき合おうと言って振られた
というのが真実らしい。
確かにカッコいい男をつれ歩くのは
女として大事なステータスなんだろうな。
わからんではない。
でも振られた逆恨みがあんなとこまで
行くなんて異常だよね。
本人逆恨みだなんて思ってないし。

かおるとも話をしたけど
あいつは関先輩がいるから

憐れな女だね。
本当に恋したことが
ないんだろうしさ。

なんていって余裕だったけど。
本当の恋ってやつはなんだろう。
あたしの目下のところの恋人は
柔道だけどねっ♪

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自分の反応が研ぎ澄まされて
技にも切れがある時には
まるで愛する人が自分をやさしく
いたわってくれるほどに
癒されて快くて世界がいとおしい。
なんて、愛する人にやさしくいたわって
もらったことなんざ
1度たりともないけどね。


でも、あたしは
あの一件で見たことのない
恋人たちを目の当たりにするわけさ。
阿部とはずっと同じクラスで
なんか閉じてるやつだなあと思ってたの。
イケてるのに鼻にかけないだけじゃなく
人と交わろうって気持ち自体が希薄な
正直残念なイケメンだった。
でもあたしも阿部も
クラスメート以上にもそれ以下にも
なろうという気がなかったから
案外フラットに話ができた方だった。
あんたなんでいつもつまんなそうなの?
つい、問いかけた。
あいつははじめてはにかんだような
ちょっとかわいい笑顔を浮かべちゃって
なんでだろうな。
って一言だけいった。

3年になって、あいつの顔が
ころっと変わった。
本当に、次の日別人に変わったみたいに。
それから阿部は毎日のように
真利村と一緒にいたな。
騎士のように、放課後に駅まで
スコートしていた。
ホモだって噂されてて
男色家の便所なんて陰口叩かれてた真利村を
すごく優しい目で見てたんだよ。
あたし、なんかジンと来ちゃったよ。
でもその時はまだ二人が恋人同士とか
愛し合ってるとかまでは
わかんなかった。
阿部には今まで男とどうのなんて
様子はなかったからね。

赤井がすごい剣幕で
真利村を学校に来られなくなるくらい
辱しめてやるなんていって
あたしとかおるを呼び出した。
赤井は別に仲よくもなんともなかったけど
逆に何を始めるのか心配だったから
話に乗るふりして確かめたかった。
その時に初めて、努と目と目を見て
話したんだよね。
面白い。一目で守ってやりたいって思った。
好きとかカッコいいとかじゃなくて
もっと人と人との深いところを
きゅっと掴まれるみたいな
その苦しいような感覚が気持ちいいというか。
不思議なやつ。
あいつは、男でも女でもない。
努って生き物だよ。

あの日、あたしは行けなかったけど
かおると関先輩、美月先生に任せて
心配はしてなかった。
あの三人でヘマすることはないよ。
かおるから聞いた。
「驚いたよ。俺はどうなってもいいから!
佑樹を放して!って。」
努は別に自分がどんな辱しめを受けるのも
構わない、でも阿部を解放しろって
刃物持った犯人に必死で訴えてたっていうんだ。
あたしも驚いた。
努は取っつきにくいとこもあるし
女子はみんな遠巻きにするし
男子も物珍しげに見てるけど
そんなことを気にしている様子もない。
話をしてると、他人の言うことに
振り回されることがどれほど馬鹿げているか
じんわりと感じる。
でもそれは、あいつが偉そうに
言う訳じゃなくて。
あいつが本当に自分というものを
きちんと持っていて、精神的に自立してる。
それがじわじわと伝わって、気持ちよく
心に響くんだ。
でもあいつは人に、人を、頼らない。
逆に言えばあいつに頼ってもらえる人間は
ある意味選ばれし者なんだよね。
あたしもそんなヤツになりたい。
「加奈子が男だったらよかったのになあ
絶対惚れてた。佑樹がいなければね。」
これは、褒め言葉かい?
そんで、なんでこんなとこにまでノロケを
はさんじまうんだよ!
まったく阿部も努も愛し合っちゃってて
いいよね。
回りが男女交際ごっこをしてる真っ只中に
男同士として、人間として、お互いを最優先に
大切に想っている。
尊敬する、こんな風になりたいと思う
そんな身近なカップルがやつらだよ。

よそ様のカップルを見ていて
お腹が一杯だよね。
しあわせ一杯ゆめ一杯。
やっぱりあたしの恋人は柔道だ。
なんて我が身を振り返っていたある日。
あたしにはとんでもない人生の転機が訪れる。

俺と柔道、どっちが好き?











は?

柔道が恋人とは公言してはばからないけど。

ついさっきそんなわけのわからない
台詞を吐いた口があたしの口に近づいた。
気づけばあたしはそいつを投げ飛ばし
足元に寝かしつけている。

えーと。
なんのおふざけだろうね。

それに、なんでこんなに簡単に投げられた?

加奈子。
結婚して。
お前が高校出るまで待つからさ。
コーチはそういうと
組み合う時とは違う力加減で
あたしに手を回してきた。

本当なら加奈子はもう16なんだから
保護者の許しがあれば
俺の妻になることだって
不可能ではないんだ。
結婚したら、俺が四六時中お前を
コーチング出来る。
まずはインターハイ優勝だ!

ぼこっ。

あたしはコーチの頭をグーで殴り倒した。

「バカだろうお前。たった今から
お前の名前は熊谷バカ一郎だ。」
柔道部のコーチ、日体大卒28歳熊谷誠一郎は
あたしにグーで頭を殴られてもちっとも痛く
ないようで、にへらにへらしながらまた
あたしに抱きつこうとした。
あたしはコーチの左をはたき落とした。
するとフェイントで右手があたしの襟を掴み
あっさりと足払いを決めて寝技に持ち込む。
「なあ。愛してるよ。加奈子。
天国につれてってやるって。」
「な、何を、ん、ぐぐっ。」


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落とされた。
なにしやがんだこのバカ一郎っ!
「お前が悪いよ。仮にもコーチにむかって。
おまえ、だのさ。バカ一郎だ、だのさ。」
「バカをバカと言って何が悪い?!」
「なあ。結婚しろよ。俺と。」
「断ーるっ!」
「頑固なヤツだ。じゃ、一日デートしろ。」
急にハードルが下がった。なんだそれは。
「そのくらいなら、してやらんこともない。」
「よっし!決まりだ!」
「飯は肉を食わせろよ。」
「野菜も同じくらい食うんだぞ。」
「あたりきよぉ!」
なんだか、あたしには急に彼氏と言うやつが
出来た。しかも、学校で体育教師としても
働いている、部活のコーチだ。
しかし、そんなものはトップシークレット
であろうに、バカ一郎はあまり気にしていない
感じなのである。
「みんなの前でなつくんじゃねえよ!
お前、あたしに男女交際をそそのかしたと
あっちゃ、首が飛びかねないんじゃないのか?」
「そんなことは俺がお前をテゴメにして
初めてビクビクすることじゃねえのか?」
「それじゃ安心だ。」
「それはどうかな?ぶひひ。」
バカ一郎はなんだかやる気満々だが
そうは問屋がおろさねえ。
せいぜいあたしの腹を高級なタンパク質で
満たしてもらおうかい。


で。あたしは、高校を出ると
バカ一郎の妻になる。
そんなんでもいい気がしてきた。
まずはインターハイ優勝だ。
二人で頂点までいこうぜ。