鶴屋開店休業回転ベッド

あたしの創作世界の基盤。だけどとてつもなくフレキシブルでヨレヨレにブレてる。キャラが勝手に動くんだ♪

俺とおまえ1

「最近どうだよ?」
直樹が久し振りに俺の隣に座った。
会社の食堂。
昼休みはもう、とっくに終わっている。
マーケティングで軽くトラブルがあり
昼休みはずっとデスクのPCに張りついてた。
時計は2時を指してる。
腹も減るわけだ。
俺は妻の作ってくれた弁当を開いて
ホッとため息をついた。
妻の双子の弟である直樹は
高校から大学ときて会社まで一緒になった。
ワイルドとナィーブをごたまぜにして
中学生とスケベ親父を一摘み、
冷蔵庫で一晩寝かせたような男である。
直樹は経理課の課長だが
お前こんな半端な時間に遊んでていいのかよ。
「3時に銀行の偉いさんに会わないと
なんないからさ。先に休憩だ。」
右手にコーヒーを持ってる。
悠長なこったね。
「マーケティング、忙しそうじゃん。」
俺はマーケティング二課の課長ではあるが
一番雑用の多い下っぱみたいなもんで
なんかあれば全部のことに関わる
何でも屋さんだ。
いつだって、忙しいよ?(笑)
「まあ、忙しいのは良いことじゃん。」
直樹はコーヒーをチビりと舐めた後
ニヤリと悪い顔になってこう言った。

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「セックスしてるか?お前ら(笑)」
俺は口にいれたばかりの女房特製
激ウマ卵焼きをすんでのところで
噴き出すところであった。
「美月はますますおじさん化が進んでる
そうじゃないか。賞平くんが言ってた。」
賞平くんは高校の先生だが
中学の先生である美月といつも理科準備室で
一日の半分近く一緒にいるわけで
日常の美月の様子を詳しく教えてくれる
貴重な存在でもあるのだ。

妻は、男らしい。
母となってからは肝っ玉母さんのスキルも
身につけて、職場でもたくさんの子ども達の
お母さん的な存在となっていた。
それが近年性別のボーダーレス化が
著しく進み、こんなお父さんに憧れる!的な
人気投票で本来の男性教師をぶっちぎり
一位に輝いているらしい。
「今年の文化祭での投票で一位とったら
もう殿堂入りなんだと。」
双子の弟が苦笑した。
「高校の時、お前が女の子にしたあいつは
見事に良い男に返り咲いてるけど?」

いや。ひとこと言わせてほしい。
女房は、女だ。
ただ、最近ちょっといろいろと
拗れてる気もする。



女房は俺と街に出ると
必ずと言っていいほどどこかに触れている。
や、若い頃にはあまりしなかった
手を繋ぐ であるとか
腕を組む であるとか
その腕に体をあずけてくる とかね。
いやわりとイチャイチャしてんのよ。
彼女のふわふわのくせっ毛が俺の耳のあたり
もふもふくすぐるんだ。
くっそ!カワイイ!
とぷっと気持ちの溢れた俺があいつの腰を
抱き寄せて頭に頬擦りすると
途端に離れていっちまう。
間が悪いと小突かれたりして。
真っ赤になって怒っちゃう(笑)
でも、しばらく歩いてると
あいつの指先が俺の指先をちょこっと
つかまえにくる。
すこし触ると離れていって
また、触ってくる。
俺から軽く手を握る。
そのまま繋いで歩く。

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じゃあ、夜もさぞや充実しているんだろうな。
そう思う方が大半だと思う。
甘い。人生はそんなに甘いものではない。
俺もおかしいと思うんだが
妻は異常なまでに睡眠を優先する。
それは睡眠を第一に考えてなのか
もうひとつの夜の使命を回避するための
大義名分なのか
俺にはわからない。
いや、うすうすわかってるんだが
認めたくない。考えたくない。

女房は俺と結婚して主婦になり
妊娠、出産して母となり
仕事も充実して忙しくなり
年を取っておばさんになった。
俺は、自分ってあんまり変わらないと思う。
主任になり、課長になり、
職場で忙しくしていても
家に帰ればでれんとした亮である。
ところが女房は家にいても俺をのんびり
構ってくれないほどに忙しいのだ。
あいつにとって、俺の順番は
一番最後だ。

夜には寝室でリラックスする時間
くらいはある。
女房が風呂上がりにニベアを肌にすりこむのを
背後から抱きすくめてみるも
「邪魔。」
の一言に蹴散らされてしまう。
愛してるよと囁けば
「バカ言ってないで早く寝なさい。
亮は朝何回起こされたら気がすむの?
あたしだって忙しいんだからね!」
色気とは対極のお説教が始まってしまう。

でも俺は夫として、男としての自己主張を
ハッキリしないといけない。
こんなことでめげていたら
女房の体に指一本触れぬまま
日々が過ぎ去ってゆくのだ。
家でも強引に甘えてスキンシップ。
俺は以前よりは彼女に対して
わがままになったかもしれないが
このくらい図々しくしてないと
日常という濁流に飲み込まれるのである。

夫は男であり、妻を女として愛している。
近くに居すぎるとこんなことにも
気づいてもらえなくなる。いや、見て見ぬふり
されるようになるってことなんだろうな。



「ねぇ。美月は俺のこと、どう思ってる?」
女房はもう愛するお布団とランデブーである。
俺は必死に呼び戻し繋ぎ止めて
なんだか中学生カップルのリードしてる女子
みたいな台詞を吐いている。
「いい旦那様だよ。」
軽くあしらわれている気もするが
感触は悪くない。

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「その旦那様のオトコを蔑ろにしている
ことに関してはどう考えてるの?
もうこんなおじさんになったから
オトコとしては認めない?」
あー。俺はちいさいオトコだな。
でも、俺をもっとオトコとして見てほしい。
お前をいつまでもオンナとして愛してるよ。
なんか喉になにかこみあげてくるほど
苦しくて切なかった。
「亮。」
美月は上から見下ろす俺に手を差しのべ
うなじに両手をまわしてやわらかく抱いた。



「だって。気持ち悪いでしょ。
48にもなって。オトコとオンナなんて。」
俺に抱かれてくれた後、美月は身も蓋もない
ことをいった。
「じゃあ、気持ちよくなかったの?」
俺はわかって訊ねた。
「んもう!いいから嫌なの!
今さら愛してほしい!なんて切なくなるの
嫌なんだってば!」
「何べんだって、してやるよ。」
「あんもう亮のバカ!」
美月は可愛い。いいオンナだ。俺はまた
女房を組み敷いてゆっくりと愛撫を始める。
胸が苦しくて、軽くめまいがしたよ。

翌朝、俺は美月に起こされる前に
爽やかに目覚めた。
台所で弁当を詰める美月のふかふかの
髪に顔を寄せて言った。
「愛してるよ。俺の可愛い奥さん。」
「うわッ!ビックリしたあ!!」
美月は俺が来たのにも気づかなかったらしく
なんとも油断して崩れた表情で振り返った。
「おはよう。美月。」
「おはよう。亮。」