鶴屋開店休業回転ベッド

あたしの創作世界の基盤。だけどとてつもなくフレキシブルでヨレヨレにブレてる。キャラが勝手に動くんだ♪

お色気と加奈子

「あのさ。誠一郎?」
日曜日。デート中、食事を終えて街をブラブラ
している加奈子と誠一郎。
誠一郎の腕に体ごと腕を絡めて歩くまでに
進化した加奈子が、小首をかしげて誠一郎を
見上げてたずねる。

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誠一郎はまだまだ明るい時間だというのに
然るべき場所に連れ込んで、ありとあらゆる
技をかけたくなったのだが、まあ、こらえた。
「なんだい?加奈子。」
加奈子に甘く顔を寄せて訊き返す。
「あたしの、あの、アレんときのさ。声って
あんなんで正解なのか?」
「アレ?声って?」
誠一郎は加奈子が真っ赤でどもりながら
話す様子で何のことかはドンピシャ100%
わかったのだが意地悪をした。
「ん。だからさ。いわゆる、あ、喘ぎ、て
ヤツ?あたしの、違う気がするんだよな。」
「まだ真っ昼間だぞ?もうしたいのか?
俺の部屋来る?」
それはそれでいっか、と思った誠一郎は
冗談めかして誘ってみた。
「あのなあ。真剣にきいてんだよ。あたしは。
あたし、おかしいか?」
いつもならバカ一郎!とグーパンチが飛んでくる
ところだと思うが、加奈子は真剣な表情を
崩さずに訊いてくるのだった。
そんならなおさら実地で解説しよう。
「あのね。誰かからなんか聞き齧ったのか
知らんけど、お前の声はかわいいよ。
俺は大好き。」
加奈子は真っ赤な顔をもっとゆでダコのように
真っ赤にした。誠一郎の肩口に隠れるように
顔を埋めてモジモジしている。
「お前の偉いとこはこんな初めての恋に
心揺れ動いても柔道の集中力が落ちないとこ。」
コーチが言うのだからこれ以上の誉め言葉はない。
「それはさほど揺れ動いてない、大したことない
ってことにならないか?」
加奈子は冗談にして笑った。
その後、真顔に戻って続ける。
「あたしが柔道が好きで頑張ってるのと
誠一郎を好きでいるのは割と延長線上に
あるっていうか、同じ世界の中なんだよな。」
「か、加奈子。俺のこと、好き?うわあ!」
「今さらかよ!わかんねえ訳じゃねえだろ?」
「だってハッキリ好きって単語は出てきたこと
なかったもん!やっぱうれしい。」
「そっか。ま、喜んでくれんならいいや。」
「加奈子。もっかい言って。」
「は?何女の子みてぇなこといってんだよ!」
「俺に、目を見て、言って。」
「バカ一郎!」

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わりと加奈子は力一杯のグーパンチを食らわして
いるつもりなんだが、誠一郎は大人しく殴られ
殴られたあともデレデレしながら加奈子を抱く。
かなわないなあ。そう思う加奈子。
こいつ、どうしてこんなにあたしを好きで
いてくれてるんだろうか。
こんな乱暴者の色っぽくも何ともないあたしを
何がよくて。好きなんだろう。
もしかすると誠一郎は何があっても自分を
好きでいてくれる、手放しに信じていい
そんな男なのかもしれない。
デレデレしただらしのない顔の誠一郎を
見ていると色んな考えがよぎり、一周して
あ、やっぱりバカだなあこいつ。と思う。
でも、大好きだなあ。このバカ一郎が。
加奈子は思いっきり気持ちをこめて微笑む。
「その顔は、俺のことを考えてる顔か?」
「まあね。」




誠一郎はその日、中等部の女子にすげえやつが
入ったと言われて、のこのこ見学にやってきた。
高等部に来るかさえ、まだわからないのに
その時はどうしてだか、俺がこの手で育てたい
なんて珍しくそんな気持ちが胸に渦巻いた。
正直、当時から柔道は楽しくはあっても
そこまで心躍りはしなかった。
一応有名な大学で柔道をやっていただけで
勤めた高校の柔道部でもコーチを任されたり
しているわけだが、高みを目指すほどの生徒も
いなかったし、程ほどの部活動をすればいいと
思うくらいの、熱意というには程遠い気持ちで
いた誠一郎だった。
中学に入学して初めて柔道にふれたという
その一年生は、まだ三ヶ月とたっていないのに
いい動きをしていた。
「牧瀬!ちょっとこっちこい。」
顧問に呼び出された加奈子は緊張した様子で
小走りにやってきた。
「こちらは高等部の方のコーチをされている
熊谷先生だ。」
加奈子は澄んだ瞳で誠一郎を見上げた。
先程まで唇を一文字に引き結んで
黙々と受け身を練習していた。
そんな表情が柔らかくほどけて、口元を
あたたかくほころばせる。

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「中等部一年生、牧瀬加奈子です!」
まだ小学生の匂いの残る加奈子。
あどけない表情に、それでももうすぐ
女になる季節の変わり目の片鱗も見られる
そんな加奈子に誠一郎は惹かれる。
まだ女として見るわけではないが
柔道も、加奈子という女も
一緒にいて育てたい。
成長をともに味わいたい。
そんな風に思った。

加奈子が二年生になり、県大会で
準優勝をする。
大会前に、誠一郎は個人的に加奈子を教えた。
しばらく見ない間に加奈子は女になっていた。
誠一郎はすこし恥ずかしいような気持ちに
なりながら、彼女と組み合い、様々な
アドバイスをし、飲み込みの早い加奈子に
感心させられた。

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「すごい!先生の言った通りにすると
面白いくらい技が決まる!」
加奈子は目を輝かせて誠一郎を見る。
「なあ。俺は中学の方の先生じゃないんだ。
だから本当ならこんな風にお前を教えちゃ
だめなんだよ。だから、これは遊び。
俺はお前の先生でもなんでもない。」
加奈子はわかっているようないないような
ピントの合ってない顔で頷いている。
「俺を近所のお兄ちゃんとでも思って。
だから、先生じゃなくて名前で呼んでくれ。」





誠一郎はいわば13歳の加奈子に一目惚れをして
じわじわと距離を詰めて、高等部に上がれば
毎日のように一緒にいて、とうとうモノにした。
下ごしらえにほぼ三年という年月をかけたのだ。
16になり、身も心も自分が女にした。
加奈子は柔道を通して誠一郎を見て
誠一郎の男に気づき、自分の中の女にも目覚めた。
周到に仕組まれたともいえるこの流れで
加奈子はじつに自然に誠一郎を好きになる。
まさに誠一郎の思う壺なのだった。


「あたしのどこがそんなにいいの?」
加奈子はあらためて彼に問う。
「実はお前が中1の時に一目惚れした。」
加奈子の服を脱がせながら楽しげに笑う
誠一郎。
「え。」
13歳の少女に25歳の青年が一目惚れなどと
そう聞く話ではない。加奈子でなくても
引くだろう。
「お前は素敵な女の子だった。」
「まだ、小学生に毛が生えたような子ども
だぜ?あたしが言うのもなんだけどさ。
まさか、お前ロリコンだったのか!」
「いい加減にしろよ加奈子。お前だったからだ。
お前だったから一目惚れしたんだよ。」
誠一郎は加奈子の首筋にキスをする。
「あん!」
不意討ちであがる声は仔犬が跳び跳ねるような
ものだ。加奈子はこの声がどんなに誠一郎を
その気にさせるか、一向に気づかないのだ。
「愛してる。俺はお前と出逢えて本当に
幸せだよ。」
誠一郎が加奈子を抱き締めて瞼にキスをして
鼻をすべり、唇をくわえるように愛撫をすると
感じるのとくすぐったいのとが半々の加奈子が
大きめの喘ぎを我慢するように押さえる。
「んはん!」
不格好な声があがるものの、誠一郎はもっと
加奈子に触れて乱れさせてみたくなるのだ。
そんな順番で彼の唇は耳たぶへと向かう。
やさしく歯を立てた後、唇と舌を駆使して
愛撫していく。
「ひ、ひあん!あ、あふぅっ!」
もしかすると気持ちよくないのかとも思うが
加奈子はまだまだ明らかに、感じている自分に
抵抗感を拭いきれていないのだ。
もう、挿入時の痛みもないはずだ。
気持ちよくないわけもない。
ぎりぎりまで声があがるのに蓋をして
最後には蓋が弾けるように外れて
喘ぎ声が飛び出してくる。
うはん!とか、ひゃん!とか、すこし
暴れるような声になるのだが
誠一郎にはもうそれが可愛くてたまらない。

あ!あぁっ!んああ!
誠一郎が突き上げるタイミングで
また弾け出すような声がもれてくる。
く、んくっ、んあっ!
息むような喘ぎ声が色っぽくないと
加奈子は思うのだろうか。
ただ、誠一郎は思う。
そんなに踏ん張って何かと対決してるみたいだ。
それは、俺なのか、加奈子自身なのか。
本当はそんなことに構っていられないほど
感じさせて絶頂に導いてやらないといけない。
「あ、あん!や、やあ!いやあん!」
そんなことを考えながら動いていると
加奈子の様子がいつもと違ってきた。
「は、はああ!あああんっ!く、くうん!」
「加奈子?」
いつになく乱れ始めた加奈子に誠一郎は
ほくそえむ。こうか?ん?ここ?これか?
「んぐぐぅん、あ"あ"あ"あ"あ"っ!」
「うお!」
加奈子が手を回した背中に爪が立った。
体を強張らせた後にくったりと力が抜けた
加奈子がゆるゆると誠一郎の首につかまり
頬擦りした。
「これ、もしかして、いっちゃったってやつかな。」
誠一郎がうれしそうに訊く。
加奈子は、すこしだけ首を縦に振る。
はあはあと息を荒げながらやさしく
誠一郎の髪を撫でている。
「でも、またぐぬぬぬって唸るような声
出しちゃったよ。もう、あたしって怪獣だよう。」
「加奈子。気持ちよかったの?感じちゃった?」
「ばかいちろう。」
二人はまたすぐに抱き合った。

加奈子は18になった。
最後のインターハイで準優勝を収めた。
決勝で破れた時には鼻水が垂れるほど
泣いたが、それは誠一郎のためでもあり
誠一郎のおかげでもあった。
負けて悔しいと思えるくらい、自分を出し切った。
思いきり泣かせてくれる胸があったから
こんなに泣けた。
加奈子の高校での柔道は、終わっ





てなかった。
加奈子は推薦で大学に合格。
三年生が引退した秋以降も
誠一郎と柔道場でもくもくと
練習に励んでいる。
「加奈子。式は春休み中に済ましちまうからな。」
「式、どうしてもするの?あたしは大学出てから
でも構わないよ?」
「麻生校長が呼んで欲しいってさ。」
ふたり、顔を見合わせて笑った。


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