鶴屋開店休業回転ベッド

あたしの創作世界の基盤。だけどとてつもなくフレキシブルでヨレヨレにブレてる。キャラが勝手に動くんだ♪

なるようにしかならない

夜、美月は亮と二人
久し振りにお酒を飲んでいる。

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「この日本酒見たことないけど美味いね。
さすが正直さんのお土産にはハズレなし。」
正直さんは美月の父だ。無類の酒好き。
呑むために引退せずに働き続けている。
「出張に行くと初めて行く土地でも
必ず美味い酒見つけてくるんだよね。」
烏賊刺しをつつきながら日本酒が進む。
「亮は飲みすぎちゃ駄目だよ。」
「わかってるよ。でも四合瓶二人でだぞ。
酔いようがないだろ。」
亮だって四合瓶一本くらいは一人で空ける。
いつも酒のことに関しては子ども扱いされて
しまうので、亮はほっぺたを膨らませる。

「それにしても意外だったな。渉。」
亮は自分の息子のことなんだけど
まるで有名人が電撃離婚!なんてニュースに
驚いたような感覚で話をする。
「あ、聞いた?」
「卓からね。もちろん本人からじゃない。」
「そりゃあの顔見れば驚くよね。」
忍に殴られた顔の腫れはかなり引いたものの
輪郭がいつもと違うのは一目瞭然だったから。
「俺が渉に問い質そうとしたら卓が、すっと
間に入ってさ。父さん、ちょっと…って。」
卓は亮の腕を引いてキッチンの端に誘導した。耳元で小声で説明してくれた。
そんないきさつで殴られたならば
まあ、仕方がない。亮もそう思った。
「あいつ。美瑛以外の女に惚れるとは。」
「小さい頃からずっと一緒で、あんな魅力的な
娘にすごい惚れられて。いわば苦労知らずの
恋愛しかしたことないじゃない?」
「あはは。確かにそうだ。あいつに他の女の子
一から口説くような面倒なこと出来ないと
思ったんだけどな。やるときはやるんだな。」
「どうなんだろうね。もしかして、逆に
他の女に口説き落とされちゃったのかも。」
「へえ。そんな歯応えのある女の子に
見込まれちゃあな。」
「とんでもなく年上だから。もし連れてくる
ようなことがあれば腰抜かさないようにね。」
「え?卓はそんなこと言ってなかったよ?」
「多分、言ってないと思うよ。卓は知らない。」
じゃあなんで美月は知ってるの?と
亮は不思議そうにする。
もう、反抗期から何年もの間
渉は自分達夫婦に腹を割って話をして
くれることはないのだ。
「そうだね。あたしにはすぐバレると
思ったからか。それとも結婚まで考えてるか。」
「バレる?」
「なんか、色々口を出したくなるけど
男と女の話だもんね。黙ってなきゃ。」
「美月は知ってるんだ?相手の女の子を。」
「女の子、じゃないな。彼女もう38だし。」
「え?」
「昔、美瑛の妊娠騒ぎ、あったでしょ。」
「あの時はお前が倒れたりして最後まで
大変だったよな。」
「あの時、附属中の先生が保健室のカウンセリング
に入っててね。渉と話してくれたんだけど。
それがその彼女な訳。」
「へーぇ。それにしてもなあ。」
「それに、あたしの初めての教え子なんだよね。」
「えっ?」
亮は驚かされっぱなしである。









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渉は殴られて歪んだ顔を自撮りした写メを
浅海に送った。
でも、これでケリがついたんだ。と。
浅海からはすぐに返信が来た。
こんなんじゃキスしても痛むわね。
やさしく慰めてあげたいけど触れないわ。
渉は浅海の体を思い出して、少し興奮した。






「でもさ。渉は結婚するつもりなのかな。」
亮はごきけんになっている。
ぐいのみと空になった四合瓶を片付けて戻った
美月にキスしてくる。
「亮、酒臭い。」
「お前もだろうが。」


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「なるようにしかならない。」
美月は独り言のように呟いた。
「やつの人生だしな。」
亮も独り言のように答えた。
「どうせ俺たちは先に死ぬんだからな。」
美月は亮に擦り寄って肩に顎をのせる。
「幸せだよ。あたしにはずっと亮が側に
いてくれた。」
「これからも、ずっとさ。」
別れるなんて、お互い考えたことがない。
それはこんなにも幸せなことなのだ。